Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2020年2月号掲載
教科書をじっくり読む

今年はどんな天文活動をしようかと思っているあなた、たまには宇宙物理についてじっくり学ぶのはいかが。雪が降って外で観測できないときなど、ちょっと難しい教科書にもチャレンジしてみよう。

まずは、上級内容の「新天文学ライブラリー」シリーズから2冊。『ガンマ線バースト』 は、宇宙でもっとも激しい爆発ともいわれるこの現象の観測的な特徴を紹介し、その解釈と起源を議論する。さらに、遠方宇宙を探る探針としての役割もさぐっていく。ブレーザーやパルサー星雲などの高エネルギー天体には多くの未解決問題があるが、ガンマ線バーストの研究成果や観測結果がそれらの問題を解決する糸口にもなるだろう。

宇宙論の研究において必要不可欠なテーマである『宇宙マイクロ波背景放射』 だが、これまで日本語で書かれた教科書は少なかった。この本では、数式の導出や結果の厳密性にこだわりすぎず、背景にある物理の本質を日本人にとってわかりやすい言葉で説明している。数式にこだわりたい読者は、数式にあふれた節もあるので、こだわり派はとことん深く読んでみよう。

次は、中級内容の「シリーズ現代の天文学」第2版から2冊。宇宙の誕生から最初の銀河が生まれるまでを観測を通じて解き明かす『宇宙論II』 は、プランク衛星の結果をもとに大幅改訂した。ちなみに、2012年既刊の『宇宙論I』 第2版では、進展著しいインフレーション宇宙論について解説している。

同じく『宇宙の観測III』 は、高エネルギー天文学についてニュートリノ天文学の進展を加味し、大幅に刷新している。参考までに、『宇宙の観測I』 では光・赤外天文学について第2版が2017年に刊行されている。電波天文学について書かれた『宇宙の観測II』 の第2版はこれから刊行予定だ。

上級内容の「シリーズ宇宙物理学の基礎」の『ブラックホール宇宙物理の基礎』 は、ブラックホールを学ぶのに必要な基礎を網羅し、最先端の研究論文が読めるところまで実力を高めることを目指している。

最後の2冊は読み物なので、初心者でも理解しやすいだろう。『宇宙の果てまで離れていても、つながっている』 は、アメリカの科学ジャーナリストが量子宇宙論の国際的リーダーたちを取材し、初心者にもわかりやすくまとめたサイエンス本。原著は発行した2015年や翌年に、数々の年間ベストブックに選ばれた話題作。

ホーキング博士最後の書き下ろし『ビッグ・クエスチョン』 は、まだ誰も解き明かしていない「究極の問い」に対する、彼の生涯を反映したメッセージである。「宇宙はどのように始まったのか」「タイムトラベルは可能なのか」など、10の謎にホーキングらしく答えていく。車いすに乗った彼は「私はこの惑星上で、普通ではない生き方をしてきたけれど、頭と物理法則を使って、宇宙をまたにかける旅もした」とつづる。そして、再生可能エネルギーや気候変動など現代の課題にも「科学とテクノロジーが答えを与えてくれる」ことを望みながら、「知識と理解ある人間が必要」であり、そのための「勇気を持とう。知りたがりになろう」と呼び掛ける。宇宙を知りたい知識欲が、人類の未来を切り開くのだ。

(紹介:原智子)