月刊ほんナビ 2025年6月号

📕 「ブラックホールに吸い込まれてみる」

紹介:原智子(星ナビ2025年6月号掲載)

国立天文台野辺山宇宙電波観測所が舞台になった劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』が公開された(本誌に関連記事)。きっと多くの人たちが“聖地”野辺山に足を運ぶことだろう。この機会に電波天文学に興味を持つ人が増えたらうれしいし、なによりも国立天文台野辺山の研究維持のために寄付の協力者が増えることを強く願う。

『超絵解本 ブラックホール』(Amazon)

さて、その国立天文台野辺山の研究成果のひとつが「世界で初めてブラックホールの存在を証明した」ことだ(1992年、中井直正氏らが高速水メーザー源を発見。星ナビ2025年5月号に関連記事)。2020年ノーベル物理学賞のテーマになったように、ブラックホールは光だけでなく、多くの科学者の研究魂も引きつける強い力も持っている。そんなブラックホールの基本情報を解説したのが、超絵解本シリーズの『ブラックホール』だ。表紙には「中・高校生からの」と書いてあるが、ふりがな付きだから本格的な知識を得ようとする小学生から学べる。想像しにくいブラックホールの姿や性質をオールカラーの図解で丁寧に教えてくれて、天文初心者の大人にも理解の手助けになる。

『プリンストン大学リトルブック ブラックホール』(Amazon)

一方、プリンストン大学リトルブックシリーズの『ブラックホール』には簡潔な図と数式しか登場せず、ユニークな比喩と思考実験によってブラックホールを解説していく。宇宙物理学・量子力学・熱物理学の理解を深める対象として、ブラックホールの世界をあつかった読み物。

『ブラックホールは白くなる』(Amazon)

同じく、翻訳された読み物が『ブラックホールは白くなる』。ブラックホールとその延長線上にある(ブラックホールの中に入り奥底まで降りて通り抜けたところにある)ホワイトホールについて、ダンテの『神曲』とともに読み手を導いていく。ダンテと同じイタリア人であるカルロ・ロヴェッリ氏が提唱するループ量子重力理論では、“漏斗状の大穴である地獄”(ブラックホール)の先にある“煉獄”をへて“天国”(ホワイトホール)にたどり着く。その世界観と叙事詩を巧みに用いた原著は、さぞ多くのイタリア人を興奮させただろう。日本人の我々は“ベアトリーチェ”(冨永星氏の翻訳と丁寧な注釈)の助けを借りながら“至高天”(ホワイトホールの理解)へたどり着こう。

『ブラックホールと高エネルギー現象 [第2版] シリーズ現代の天文学 8』(Amazon)

ここからは教科書を4冊紹介する。シリーズ現代の天文学『ブラックホールと高エネルギー現象[第2版]』は2007年の初版から17年をへて、「ブラックホールシャドウの撮像」と「マルチメッセンジャー天文学」という新たな知見が加わった。とくに、ニュートリノ・重力波・電磁波など宇宙から届くシグナルを組み合わせた「マルチメッセンジャー天文学」は、今後の発展が期待される分野で記述量も多い。

『一般相対論の基礎から学ぶ 重力レンズと重力波天文学』(Amazon)

ブラックホールの検出に欠かせないのが、重力レンズや重力波だ。『重力レンズと重力波天文学』は、一般相対性理論をベースにしながら、重力レンズと重力波の最新現場をそれぞれの第一線で活躍する研究者が解説した専門書。

『重力波・摂動論 シリーズ〈理論物理の探究〉 1』(Amazon)

同じテーマで、シリーズ〈理論物理の探究〉から『重力波・摂動論』と『重力レンズ』とりあげる。『重力波・摂動論』は2022年に刊行されたものだが、ブラックホール摂動論を日本語で解説する教科書は見当たらないので今回あわせて紹介する。同書には、重力波と摂動論の理論、データ解析、観測を行うのに必要な知識が詰まっている。また、重力波や摂動論を学ぶ学生が理解しやすいように、数式の結果だけでなく導出過程も書き表してくれているのも役に立つだろう。

『重力レンズ シリーズ〈理論物理の探究〉 3』(Amazon)

そして、『重力レンズ』では「強い重力レンズ」「重力マイクロレンズ」「弱い重力レンズ」「波動光学重力レンズ」について、基本原理や方程式を解説している。一人の著者が執筆したのでそれぞれの関係性が一貫しており、式の統一性もある。

マルチメッセンジャー天文学では、多くの観測結果(証拠)を集めて複雑な事象(事件)の謎を解く。世界中の研究者(名探偵)がとても頼もしい。

▶ 「月刊ほんナビ」バックナンバー

▶ 「天文書評&新刊情報」トップページ