銀河ハローにも存在しないダークバリオン

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銀河に含まれる普通の物質が予測よりずっと少ないという「ダークバリオン問題」について、物質が銀河周囲のハロー部分に存在する可能性を調べた研究成果が発表された。どうやら、ハローにもないらしい。

【2018年4月24日 ヨーロッパ宇宙機関

宇宙に存在する物質は、いわゆる「普通の物質」と「ダークマター(暗黒物質)」の2種類がある。ダークマターのほうが普通の物質の6倍も多く存在しているが、普通の物質ももちろん、それなりの量が存在する。

ところが、近傍銀河の観測結果によると、銀河中の普通の物質は期待される量の3分の1しかなく、天の川銀河の場合も半分以下しか存在していない。この食い違いは「ダークバリオン問題」「消えたバリオン問題」という謎として知られている。

一つの説として、この物質(ダークバリオン、ミッシングマター)は光学的に観測可能な部分ではなく、銀河を大きく取り巻く高温ガスのハロー部分に存在しているかもしれないというものがあるが、その確認は難しかった。ハローはX線で観測することができるものの、希薄なために背景と区別しにくい。銀河に近く観測しやすい部分のハローのデータから外側の様子を推測するという方法が用いられることもあるが、得られる結果は不確実なものとなってしまいかねない。

米・ミシガン大学のJiang-Tao Liさんたちの研究チームは、銀河から離れたハローの様子を探るため、ヨーロッパ宇宙機関のX線天文衛星「XMMニュートン」で観測された複数の似た渦巻銀河のデータを重ね合わせ、これらの平均的な特徴を持つ銀河のデータを作り出した。「この方法によって銀河のデータが強調され、1個の銀河を観測した場合よりも3倍遠い領域からのX線放射の情報が得られ、より正確で信頼度の高い推測が可能になりました」(同大学 Joel Bregmanさん)。

銀河周囲のX線放射を示したイラスト
5つの銀河の観測データから作られた、銀河周囲のX線放射(紫)を示したイラスト(提供:ESA/XMM-Newton; J-T. Li (University of Michigan, USA); Sloan Digital Sky Survey (SDSS))

しかし、結局わかったことは、ハロー部分にもダークバリオンはなさそうだということだ。Liさんたちは天の川銀河の半径の30倍に相当するほど外側まで広く物質の存在量を推定してみたが、依然として期待される量のうち4分の3ほどの物質が行方不明のままである。

では、ダークバリオンはどこにあるのだろうか。観測が難しいような状態のガスとして存在している、観測でカバーしていないところや観測したもののX線が弱すぎて検出できないところにある、といった理論が考えられている。いずれにせよ銀河内にはじゅうぶんな量は存在していないので、こうした普通の物質は超新星爆発や超大質量ブラックホールの影響で銀河外へと失われてしまったのかもしれない。

「今回の結果は、より現実的な銀河モデルの構築に役立つ重要な研究であり、天の川銀河がどのようにして形成され進化してきたのかに関する理解を深めることにもつながります。行方不明の物質の謎を解き明かす研究は続きます」(XMMニュートン・プロジェクトサイエンティスト Norbert Schartelさん)。

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