星間分子からの電波を一度にとらえる新型受信機

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星の誕生現場にある様々な分子が放出する広い周波数帯域の電波を同時に検出できる新型受信機システムが開発され、試験観測に成功した。

【2021年7月15日 アルマ望遠鏡

星と星の間に広がるガスと塵(星間物質)の中には様々な分子が存在し、分子はそれぞれの種類に対応した周波数の電波を放っている。星間物質は星や惑星の材料となるので、これらの分子をまとめて観測することが望まれるが、電波望遠鏡で一度に受信できる周波数の範囲(周波数帯域)には限度があるため、あらゆる分子に応じた周波数を同時に観測するのは難しかった。

周波数帯域が絞られてしまうのは、電波受信機を構成する様々なコンポーネントの特性によるものである。そこで、大阪府立大学大学院理学系研究科宇宙物理学研究室と、国立天文台のアルマプロジェクト・先端技術センターは、より多く分子からの電波を同時に観測できる新受信システムを開発した。今回の開発では、アンテナで集めた電波を受信機へ導く「ホーン」と、電波を分光計に通す前に低い周波数へ変換する「中間周波数変換部」がそれぞれ対応する周波数帯域を広げることで、受信機全体での周波数帯域を従来の数倍に拡大させている。

開発された受信機システム
開発された受信機システム(矢印は集められた電波が進み出力される経路)。パラボラで集められた電波は左下のホーンを通って受信機に導かれ、ヘテロダイン受信(対象となる電波に近い周波数の参照電波を重ね合わせることにより、その差周波成分を取り出す方法)により低い周波数に変換され(中間周波数)、その後分光計に入力される。分光計では周波数ごとの電波強度を調べることができ、分子ごとに特有の周波数の電波についてその種類や強度を調べることができる(提供:大阪府立大学)

開発された受信機システムは大阪府立大学の1.85m電波望遠鏡(国立天文台野辺山宇宙電波観測所内に設置)に搭載され、実際の天体からの電波を期待どおりにとらえることに成功した。

一酸化炭素分子とその同位体分子からの電波輝線
開発された広帯域受信機で同時に観測された、オリオン座大星雲内の「オリオンKL」と呼ばれる領域に存在する一酸化炭素分子、およびその同位体分子からの6つの電波輝線。画像クリックで拡大表示(提供:大阪府立大学/国立天文台、以下同)

オリオン座分子雲のガスの広がり
広帯域受信機で同時に観測された、オリオン座分子雲のガスの広がり。同位体分子によって広がりが異なることがわかる

現在のアルマ望遠鏡では、「バンド6」と呼ばれる211-275GHzの周波数帯域と「バンド7」と呼ばれる275-373GHzの周波数帯域は別々の受信機で受信するが、新システムでは両者を含む210-375GHzの電波を同時に受信できる。また、中間周波数帯(実際に分光計で分光できる周波数範囲)は4-8GHzの帯域が一般的だが、4-21GHzへの広帯域化にも成功した。これらの性能を持つ受信機が実際の望遠鏡に搭載され、星間分子からの電波が受信されたのは、今回が世界初のことだ。

アルマ望遠鏡の性能を向上させるための開発ロードマップでも受信機の広帯域化が重点項目として取り上げられており、今回開発された受信機システムは、アルマ望遠鏡や他の大型電波望遠鏡の受信機への応用が期待されている。

新システムとアルマ望遠鏡の受信機の観測可能周波数帯の模式図
開発された広帯域受信機システムと、アルマ望遠鏡バンド6・7受信機の観測可能周波数帯の模式図。いずれも濃い色の部分が同時に観測できる周波数帯域を表す。アルマ望遠鏡バンド6受信機を使えば5.5GHz幅の領域を2つ、バンド7受信機を使えば4GHz幅の領域を2つ同時に観測できるが、今回開発された広帯域受信機システムは4GHz幅の領域2つと17GHz幅の領域1つを観測でき、非常に広い周波数帯の電波を検出できることがわかる)