連星の誕生、星の種が分裂している場面を初めて観測

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アルマ望遠鏡が、赤ちゃん星が誕生する直前の分子雲コアの内部構造をとらえた。そのうちの一つではガスと塵が複数の塊に分裂していて、連星系に発達するとみられる。

【2021年3月3日 中央研究院天文及天文物理研究所アルマ望遠鏡

太陽のような恒星は、低温のガスや塵が集まった分子雲で誕生する。物質が特に濃い分子雲コアの中でガスがまとまり、収縮しながら温度が上昇する原始星の段階を経て核融合で輝きだす、というのがその過程だ。「星が誕生する現場」というときにはこれらの段階のいずれかを指すが、原始星が生まれる直前の分子雲コア内部は「星の卵」や「星の種」にたとえられて注目されている。

恒星が誕生するメカニズムを理解する上で、星の種の分析は重要だ。たとえば、多くの恒星は連星の状態で誕生するが、ひとまとまりの分子雲がどの段階で複数の星に分裂するのかはよくわかっていない。しかし、恒星の寿命全体から見れば原始星が誕生するまでの時間は非常に短いので、星の種は珍しく、しかも分子雲に埋もれているので、観測すること自体も難しい。とくに可視光線では光が塵に完全に遮られてしまう。

そこで、台湾・中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のDipen Sahuさんたちの国際研究チームは、オリオン座の星形成領域を電波望遠鏡で探索した。Sahuさんたちはまず、米・ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)で塵が放つ電波をとらえ、星の材料が多く集まっている星形成場所の候補を選びだした。

この候補の中から、アルマ望遠鏡で5つの分子雲コアを1000au(約1500億km)という高解像度で詳しく観測したところ、分子雲コアの一つであるG205.46-14.56M3の内部に、種といえる段階まで成長したガス塊が複数あることが明らかになった。個々が星になることで、最終的には連星系ができるだろうと研究チームは考えている。分子雲コアの中で複数の星への分裂がとらえられたのは初めてのことだ。

分子雲コア「G205.46-14.56M3」
オリオン座分子雲の中に位置する分子雲コア「G205.46-14.56M3」。(右側上)JCMTの電波カメラSCUBA2がとらえた「分子雲コア」。(右側下)アルマ望遠鏡がとらえた分子雲コアの内部構造。電波が強い場所が2か所あり、分子雲コア内部に複雑な構造があることがわかる(提供:ASIAA/Wei-Hao Wang/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Tie Liu/Sahu et al.)

「アルマ望遠鏡は、その比類なき感度と解像度で、かすかなガス塊をはっきり見せてくれました。双子や三つ子の赤ちゃん星を見つけることはよくありますが、今回の発見は黄身が2つある卵を見つけたようなものです」(ASIAA Sheng-Yuan Liuさん)。

今回の観測では、G205.46-14.56M3の中でガスと塵が複数個のまとまりを形成していることがわかったものの、その構造がどのように作られたかまではわかっていない。研究チームでは、分子雲コア内でのガスの動きと重力に磁場が絡んで種の分裂が生じたのだと推測している。