単純な化学反応から生命が生まれうることを宇宙論で実証

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生命科学と宇宙論とを組み合わせた研究で、単純な化学反応から生命が誕生する可能性が検討された。非常に低確率ながら、宇宙の広さを考えればどこかには発生しうるが、その生命と私たちとが出会う可能性は極めて低いようだ。

【2020年2月7日 東京大学

生命が宇宙にどのように誕生したのかは、自然科学における最大の謎の一つだ。現在有力視されている「RNAワールド」説では最初の生命はRNAから始まったと考えられているが、そもそもRNAが単純かつランダムな化学反応(非生物的な過程)からどのように誕生したかは謎のままである。

生物的遺伝情報を持つDNAやRNAはヌクレオチド(核酸塩基)と呼ばれる多数の分子で構成されており、4種のヌクレオチドのつながり方によって複雑な情報を保存できる。生命科学の研究によれば、自己複製などの活性を持つRNAが生まれるためには、ヌクレオチドが最低でも40個、典型的には100個程度以上につながらなければならないと考えられている。

仮に、ヌクレオチドが一つずつランダムに結合する化学反応だけで充分な長さになり、正しい情報配列を含んで生まれることが可能であれば、単純な化学反応でもRNAが誕生しうることが示される。実際にそのようなことは起こり得るのか、起こるとしたらどのくらいの確率なのだろうか。

東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則さんは、原始の地球型惑星においてヌクレオチドがランダムに結合し、生命誕生に必要な長さと情報配列を持つRNAが生まれる確率と、宇宙の中の星の数とを結びつける方程式を考案し、宇宙のどこかでランダムな化学反応だけによって生命(知的生命体ではなく最初の生命体という意味)が誕生できる可能性を探った。

その結果、40単位の長さで特定の情報配列を持つRNAが偶然に生まれるためには、宇宙の星の数は1040個ほど必要となり、100単位の長さなら10180個の星が必要となることが示された。この数は私たちが観測可能な領域である半径138億光年の範囲に含まれる星の数(1022個)をはるかに超えているが、観測可能な領域を超えた宇宙の大きさを考えれば十分に可能な数字だ。宇宙全体は半径138億光年よりずっと広く、ほとんどの研究者に支持されているインフレーション宇宙モデルが正しければ、少なくとも1078倍以上に広がっている。つまり、宇宙のどこかで、単純な化学反応だけで生命が誕生することは、じゅうぶんあり得るということになる。

RNAの長さと、そのRNAが非生物的に誕生するために必要な星の数
RNAの長さと、そのようなRNAが非生物的に誕生するために必要な星の数の関係。水平の点線はそれぞれ、0:1個の星/11:天の川銀河の星の数(1011個)/22:観測可能な宇宙の星の数(1022個)、を表す。グラフ上部の「100:インフレーション×2」は、宇宙のインフレーションが現在の観測可能な宇宙を作るために必要な最低限の場合より2倍長く続いた場合の、宇宙における星の数(10100個)を示す(22+78=100)。同様に178:×3/256:×4、となっている(提供:リリースより)

今回の研究成果の主要な意義は、ランダムな化学反応というプロセスだけで宇宙の中に自然に生命が発生できることを示した点にある。「複雑な生命情報の無生物からの誕生」という難問に、初めて一つの回答を出したものと言えるだろう。

一方でこのシナリオに基づけば、生命を育むことができる天体は、観測可能な半径138億光年の宇宙の中で地球ただ1つということも示される。もちろん、もっと効率の良い未知のRNAの生成プロセスがあり、観測可能な宇宙にも生命が満ちあふれているという可能性は否定できない。

現在、太陽系外惑星は4000個以上も見つかっており、太陽系内にも木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスなど生命存在に適した環境があるとみられる天体もある。生命そのものやその材料となる物質探し、効率の良いRNA生成メカニズムの解明など、天文学と生命科学の双方から生命誕生についての理解が深められることが期待される。

地球
生命が誕生したことが確実にわかっている、現在のところ唯一の天体(提供:NASA Visible Earth