「すばる」がとらえたステファンの五つ子

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【2011年8月23日 すばる望遠鏡

「ステファンの五つ子」として有名な銀河の集団に、実は1つだけ近い距離の銀河が存在する。五つ子の中で星が誕生する輝きを手がかりに、「すばる望遠鏡」の画像で探ってみよう。


すばる望遠鏡がとらえた「ステファンの五つ子」

すばる望遠鏡がとらえた「ステファンの五つ子」。左画像では、左下の銀河の星生成領域が赤く輝いている。右画像では、上側の3つの銀河の間に星生成領域が見られる。左右それぞれ、銀河までの距離(後退速度)に応じたHα輝線フィルターを用いて撮影している。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

「ステファンの五つ子」の模式図

「ステファンの五つ子」の銀河の模式図。赤い箇所は銀河の衝突によって星生成が活発になり、Hα輝線を放っている場所。画像1枚目の右画像に見られる。

画像1枚目は、ペガスス座の方向にある「ステファンの五つ子」と呼ばれる銀河群を、可視光とHα輝線でとらえたものだ。大まかに見ると4個の明るい部分が存在するが、真ん中の銀河は2つの小さい銀河が衝突しているので、合計5個となる(画像2枚目)。1877年にフランスの天文学者エドゥアール・ジャン=マリ・ステファン氏が発見したことからこのように呼ばれている。

Hα輝線とは水素イオンが発する特殊な光で、銀河の中に星生成領域が存在することをを示す。画像では赤く輝いている部分だ。このHα輝線はすばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」のフィルターによってとらえられるが、銀河までの距離によって対応するフィルターが異なる()。

画像1枚目の左画像は、左下の銀河「NGC 7320」にのみ赤い斑点のように光っている部分が見える。これは、NGC 7320だけが他の4つに比べて近い距離である約5,000万光年先にあり、その距離から放たれるHα輝線を映し出しているからだ。

一方右画像では、上側の3つの銀河の間にHα輝線を放つ領域が見られ、NGC 7320ではほとんど構造が見えない。これは、約3億光年先にある4つの銀河のうちの2つ(NGC 7318AとNGC 7318B)の衝突によって互いの銀河からガスが剥ぎとられ、さらにそこにもう一つの銀河(NGC 7319)がぶつかってきて衝撃波を生じ、激しい星生成を誘起したものと考えられている。この星生成で生まれた若い星によって、剥ぎとられた水素ガスが光っている。

このように、異なった距離にあるのに偶然同じ方向にあって重なって見えているような天体も、銀河までの距離に対応したHαフィルターを使うことで、それぞれの星生成活動を詳細に観測することができるのだ。

注:「銀河までの距離」 厳密には、地球から遠ざかる速度(後退速度)を測定している。遠くの銀河ほど高速で遠ざかることがわかっている(ハッブルの法則)ので、速度から銀河までの距離が求められる。銀河が遠ざかるとHα輝線の波長が伸びるため、その波長に応じたフィルターで観測する必要がある。