すばる、銀河からまっすぐにのびる謎の水素ガス雲を発見

【2007年3月6日 すばる望遠鏡 / 国立天文台 アストロ・トピックス(278)

約3億光年離れた銀河から、細くたなびく謎の水素ガス雲が出ているようすが、すばる望遠鏡によって観測された。この雲は長さ約20万光年に対して、太さわずか6000光年ほど。観測史上類を見ない構造で、どのように形成されたのかも不明だ。


アストロ・トピックスより

(COSMOS天域におけるダークマターの3次元構造)

銀河D100と、右上にのびる電離水素ガス。水素の電離輝線に対応する波長で撮影した画像(赤で着色)に、2種類の可視光波長(青、緑で着色)で撮影した画像を重ね合わせた擬似色画像。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

国立天文台と東京大学の合同研究グループは、すばる望遠鏡主焦点カメラと水素の電離輝線をとらえる特殊なフィルターによる撮像観測(注1)を行い、我々からおよそ3億光年離れたかみのけ座銀河団に属する銀河の1つ(D100)から、水素の電離ガスが細くまっすぐに伸びていることを発見しました。この電離水素ガス雲は約20万光年もの長さにわたって伸びており、これはわれわれの天の川銀河と大マゼラン雲との距離に匹敵します。また、その細さ(約6000光年)も大きな特徴で、このような細長い構造を持つ電離水素ガス雲が発見されたのは世界で初めてのことです。

銀河に付随する細く伸びた構造としては、活動銀河核から噴き出したジェットがよく知られています(注2)。しかし、今回の銀河は活動銀河核を持っておらず、通常ジェットに付随して観測されるX線や電波も検出されていません。このため、今回発見された構造はまったく別のメカニズムでつくられたものと考えられます。

そのメカニズムは今のところよくわかっていませんが、この銀河では3億年ほど前までは銀河全体で活発に星生成を行っていた(現在は停止している)こと、またこの銀河が銀河団に属することが関係していると研究グループは考えています。水素の電離輝線の観測が進むと、このような興味深い構造が他にも発見されることが期待されます。

本成果は、2007年4月20日付のAstrophysical Journal誌に発表される予定です。

(注1)水素の大部分が電離(イオン化)した状態にあるガス雲からは、電離していない中性の水素ガスが特定の波長の光を放射する輝線として観測されることが知られています。今回はその特徴を利用した観測を行いました。

(注2)銀河の中心には巨大ブラックホールが存在し、そこに物質が落ちる際に激しくエネルギーを放出する場合があります。これは活動銀河核とよばれ、強いX線および電波の放射や、ジェットとよばれる特定の方向への激しい物質の放出を伴うことが知られています。