「はやぶさ」、試料容器を地球帰還カプセルへ収納

【2007年1月31日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース

2005年11月に小惑星イトカワへの離着陸を成功させた後、さまざまな問題を抱えていた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」だが、交信復活と姿勢制御に続き、電池などのトラブルを克服して試料容器を地球帰還カプセルへ収納し、ふたを閉める事に成功した。イトカワの試料を入手した可能性を残し、今春にエンジンを再点火し地球への帰還を始める。


交信復旧後の「はやぶさ」

「はやぶさ」サンプラーと地球帰還カプセルの内部機構の模式図

「はやぶさ」サンプラーと地球帰還カプセルの内部機構の模式図。クリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

2005年11月に小惑星イトカワから離陸した後、探査機「はやぶさ」は危機的状態にあった。姿勢制御用の化学燃料が漏れて同エンジンが使えなくなり、さらに燃料などがガスとして噴出したことで姿勢が大きく乱れてしまったのである。結果として12月8日以降地球との交信がとだえ、太陽電池の発生電力が極端に低下して電源系統に異常をきたした。後に明らかになったが、搭載されていたリチウムイオン電池の一部は使用不能に陥り、さらには漏れた燃料の相当量が探査機内部に残留していた。

その後、1月下旬に微弱ながら「はやぶさ」からの通信が復活。使えなくなってしまった化学エンジンの代わりに本来惑星間飛行に使われるイオンエンジンを用いるなどして姿勢を戻し、さらに内部を暖めて燃料ガスを追い出した。数ある復旧作業の中でも、とりわけ慎重に行われたのがリチウムイオン電池の運用再開だ。

電池は、採取容器を地球帰還カプセルに収納してふたを閉じるために使われる予定だった。イトカワへの着地時に採取装置が予定どおりに動作したわけではないが、それでも容器には小石や砂が入り込んだ可能性が残されている。「はやぶさ」の最終目標である小惑星サンプルリターンの実現は、リチウムイオン電池抜きには考えられない。

リチウムイオン電池はノートパソコンなどにも使われる充電池である。小型化が可能な反面、充電せずに使い続けると正常に充電できなくなってしまう。「はやぶさ」に搭載された11個の電池のうち、4個がこの状態にあった。異常状態にある電池からの発熱・発火を避けつつ、健常な電池を充電するため、「はやぶさ」運用チームは企業の協力を得て地上実験を繰り返し、実際の作業にも時間をかけた。

チャンスは1週間だった

本来、容器の収納は「はやぶさ」がイトカワから離陸した直後に行われるはずだった。しかし「はやぶさ」は相次ぐ困難に見舞われた上、2006年春に姿勢制御と残留燃料の追い出しをほぼ済ませたころには軌道上で太陽から遠ざかる位置にあった。作業に必要な温度と電力を得るため、運用チームは再び太陽に近づくのを待っていた。

一方、今年の春にはイオンエンジンを再点火し地球への帰還を始めることが決定していた。ソフトウェアの書き換えなどにかかる時間を考慮すれば、容器収納のタイミングは1月半ばの1週間ほどしか許されないとされた。リチウムイオン電池の充電状態などを確認しつつ、1月17日に作業が行われた。

採取容器はふたと一体化している。これを地球帰還カプセルに差し込み、真空密閉することで収納とふた閉めは完了するのだが、採取口と容器をつなぐチューブを抜いたり、電力ケーブルを切断するなど、決して単純な行程とは言えない。地球から「はやぶさ」へ信号を送り、応答が帰ってくるまでの時間は7分半。16時15分に始まった運用の成功が確認されたのは、翌18日深夜1時半のことだった。

カプセルの次の出番は、3年半後

こうして、予定から13か月遅れながらも容器は帰還カプセルに格納された。試料採取装置とリチウムイオン電池はサンプルリターンへの夢をつなぎ、運用を終えたのである。

これから運用チームは「はやぶさ」の姿勢の安定を保ちつつ、プログラムを書き換えて帰りの惑星間飛行に備える。春にはイオンエンジンが点火され、2010年6月ごろに「はやぶさ」は地球へ戻る。そして、帰還カプセルが容器とともに分離され、大気圏に突入し回収される予定だ。

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