Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2022年2月号掲載
時と位置を知り、天文現象を知る

新年を迎えると誰でも「今年はどんな年になるだろうか」と思ったり、「良い年になってほしい」と願ったりする。今回は、「時」や「暦」をテーマにした本を集めた。

『時間の日本史』は古代から現在までの時間と社会について、5人の専門家がそれぞれの角度から解説した“時間の教科書”。1920(大正9)年に「時の記念日」が制定されてから100周年を迎えた2020年、国立科学博物館と明石市立天文科学館で「『時』展覧会2020」が開催された。それをきっかけに各分野の代表者がリレー形式で執筆し2021年に発刊したもので、同展覧会の副読本の役割を果たしている。天智天皇が漏刻で時を計ったとされる飛鳥時代から江戸時代までの様々な暦と和時計、明治の改暦以後の社会変化、世界的高水準の時計を世に送り出した国産メーカーの記録、現代生活を支える超高精度な原子時計の技術、天文学と時間学から考察する「時」、いずれも興味深い。豊かな四季の変化を感じて暮らしながら一日を秒刻みで慌ただしく生活する現在の私たちは、どうやらDNAに様々な「時の記憶」が刻まれているようだ。

『長久保赤水の天文学』は江戸時代中期の地理学者で儒学者の長久保赤水について、その功績を天文学の角度から紹介した記録誌。彼が正確な日本地図を作ったのは、伊能忠敬に先駆けること数十年。しかも、緯度経度を活用した位置天文学(天文暦学)によって制作された。当時の庶民が頼りにしたという彼の地図や資料群は、学術的価値の高さが認められ、2020年9月に国の重要文化財に指定された。この本からは彼の偉業とともに、郷土の偉人を敬愛する茨城県高萩市民の情熱も伝わってくる。

『天文航海の基礎』『天文航法のABC』は天測航法の教科書で、ほぼ同時期(2020年春)に出版されている。天測航法とは、陸の見えない外洋などで天体観測によって船舶や航空機の位置を特定する手法。衛星測位システム(GPS) の発達により天測航法は補助的なものになったが、基本知識は理解しておく必要がある。本来は海技士などの資格取得を目指す人のための解説書だが、天文ファンにとっても星の位置と時刻で自分の場所を知る技法の理論は、目を通すだけでも魅力的だ。両書とも7つの章に分けて、ほぼ同じ順番に同じ内容を扱っている。当コーナーでは便宜上、発行された日付順に掲載したが、違いは表紙の色(白・青)と判型(やや大きいB5・やや小さいA5)であることを伝えておく。

最後は、2022年の天文現象を知るのに役立つ年鑑と手帳を紹介しよう。『アストロガイド星空年鑑2022』は、見逃せない天文現象と毎月の星空の様子をオールカラーで紹介するムック。2022年の天文現象のなかで大きな話題になるのは11月に全国で見られる「皆既月食と皆既中に起こる天王星食」だろう。図解を用いて誌面で伝えるとともに、付録のDVDで動画解説している。DVDには他に、双眼鏡や天体望遠鏡の選び方など全17本の動画を収録。また、便利なシミュレーションソフト「アストロガイドブラウザ」もあり、ボリューム満点の一冊。

もっと手軽に持ち歩くには『天文手帳』がお勧め。初版から46年の歳月を経ても愛され続けている、天文ファン必携書。コンパクトなサイズに図解を収めた「毎月の星空」、日々の天文情報と歴史上のトピックを週単位で記した「天文カレンダー」、必要な天文数値を要約した「天文資料」。安定感ある手帳は、まさに天文ライフのバイブル。さあ、ここにどんな予定が書き込まれるだろう。2022年があなたにとって、良い年でありますように。

(紹介:原智子)