Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2018年10月号掲載
秋の夜長に、文学で天文を味わう

今夏の猛暑の夜は火星とアンタレスが競うように輝き、まさに「旱星(ひでりぼし)」という言葉がぴったりだった。やがて秋になれば「中秋の名月」(今年は9月24日)が訪れる。昔から人間は夜空を見上げて、暑ければ暑いなりに、寒ければ寒いなりに、天体に感情を重ね合わせてきた。そんな感情を表現したひとつの形態が“文学”だろう。

『月の文学館』 『星の文学館』 は、明治から現代の文学の中から、月と星が登場する作品を収めたアンソロジー。『月の文学館』には、稲垣足穂・浅田次郎・林芙美子・井上靖・尾形亀之助・川端康成・宮尾登美子・谷崎潤一郎・萩原朔太郎・永井荷風・北杜夫・円地文子・瀬戸内寂聴など珠玉の43篇がつまっている。「月光異聞」「月光密輸入」「殺人者の憩いの家」などタイトルを並べただけでも、いかにもlunatic(ルナティック)だ。しかしそれだけではなく、かぐや姫や月のウサギを思い浮かべた随筆や、月見や名月など風流な気持ちや出来事をつづった作品もある。芭蕉の句を借りてもじるなら「さまざまなこと思い出す月夜かな」といったところか。『星の文学館』には、山口誓子・森繁久彌・内田百痢水木しげる・江戸川乱歩・茨木のり子・中村紘子・岡本かの子・三浦しをん・宮沢賢治・大江健三郎・小松左京など、多様な分野の作品35篇が収録されている。『月の文学館』は各作品のテーマによって章が分かれているが、『星の文学館』は登場する天体によって分かれている。「天の川と七夕」「ハレー彗星と日蝕」「太陽系の惑星」「天体観測と星座」「宇宙の深淵」の5章で、作品ジャンルは多彩だ。寺山修司の戯曲「コメット・イケヤ」はぜひ舞台やドラマで観劇したいし、阿部謹也の「中世の星の下で」で紹介される「ハウスブーフ(家の書)」の版画は実物を鑑賞してみたい。さらに、個人的に目を引いたのは尾崎喜八の「湖畔の星」。諏訪湖畔の測候所前で地元アマチュア天文家たちと著者が「諏訪天文同好会第一回天体観測会」を行ったときの記憶。筆者の出身地で行われた遠い昔の天体観測会が、現在の観測会とほとんど変わらないことが伝わってきた。そして、いつでも朗読したくなるお気に入りが、谷川俊太郎の「二十億光年の孤独」だ。ちなみに、両書の編者である和田博文氏によると、2冊を編集するために目を通した作品は、月と天体をあわせて2000篇以上だという。同シリーズの『猫の文学館1・2』では半分の約1000篇だったから、「つまり猫よりも、天体に対する関心の方が、はるかに大きいことになる」と分析している。

次は、文章だけでなく美しい写真も見どころの2冊。『一瞬の宇宙』 は、星ナビでお馴染みのKAGAYA氏のフォトエッセイ。ウユニ塩湖の星、南極の皆既日食、ニュージーランドのオーロラ。さらに天体だけでなく、イルカやクジラとの共泳や、桜前線の追っかけなど、彼の好奇心の広さと強さを感じる。これまで作品集や写真集は多く出してきた彼だが、撮影にまつわる詳細な状況や気持ちを交えたフォトエッセイの出版は初めて。しかし、本誌の連載記事を読んできた読者なら、彼がどれほど強い情熱を持って行動しているか知ってる人も多いはず。そんな「KAGAYA通信」に登場したエピソードもこの本に含まれている。あらためて、地球と宇宙のあるがままの姿を追い続けるKAGAYA氏の記録をぜひ読んでほしい。

『雲の教室』 は気象庁の研究官で雲研究者でもある荒木健太郎氏が、雲や気象にまつわる疑問に答えた「世界でいちばん素敵な教室」シリーズのビジュアルブック。「雲はどうして白いの?」「きれいな色の空が見たい!」などの疑問や要望に、まず「ミー散乱のためです」「薄明の空を見上げてみましょう」などシンプルに答える。次ページで細かな図解を使って可視光や散乱について説明したり、美しい写真とともに真っ青なブルーモーメントやピンクのビーナスベルトと地球影などを紹介する。そして、「地震雲ってあるの?」という疑問には、「雲は地震の前兆になりません」と答える。「地震が不安なら備えましょう。雲は愛でた方が幸せになれます」という言葉に、著者の深い雲愛を感じた。

最後は、小説『星降(ほしふり)プラネタリウム』 。大手不動産管理会社の施設運営部プラネタリウム事業課天文係に配属された新入社員、つまり新人解説員が、先輩やさまざまな客との交流を経て成長する物語。著者はこれまでに、花火師・バイク便ライダー・スタントウーマンなど個性的な職業に携わる若者の人間模様を描いてきた。たしかに公務員が公共施設のプラネタリウム番組を流す作業などをすることはあるが、専門知識が皆無の状態からオール生解説をするのはなかなかハードな設定だ。それでも、テレビドラマに登場しそうな訳あり登場人物たちによる好感度の高いストーリーは、なかなか面白くて一気に読める。やはりプラネタリウムという場所はロマンチックで、人生を語るのにオススメの舞台なのだろう。

(紹介:原智子)