Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年12月号掲載
読書の秋スペシャル 拡大版
子どもも大人も見て読んで知る宇宙

絵本には、それを手にした人を笑顔にする不思議な力がある。子どもに限らず大人でも、表紙を開くときからワクワクして気持ちが高まる。今月は、クリスマスプレゼントにもおすすめの、絵本や児童書を中心に集めてみた。いずれの本もビジュアルが凝っていて、できればカラーで書影を紹介したいところだ。とくに『ネコ博士が語る 宇宙のふしぎ』 はシックな色合いがおしゃれで、モノクロ掲載なのがとても残念。クラシカルな雰囲気の絵でありながら、ポップでキュートなのは、イラストレーターがイギリス出身だからか。宇宙の誕生から太陽系の各惑星のこと、そして宇宙の未来や謎について、ネコ博士がユーモラスに教えてくれる。その内容はかなり専門的で、子どもにはわかりにくい難解な言葉も登場する。文章量も多く、大人でも簡単には読み切れない。この絵本を手にした子どもは、何度も繰り返し読んで徐々に理解を深めていくうちに「簡単にはわからないからこそ面白い」という科学の魅力に気づくだろう。

日本の金星探査機について書かれた『「あかつき」』 は、2010年の打ち上げから現在までの活動を紹介する児童書。「あかつき」に起こった予定外の事態や復活劇について、探査機が主人公になって語っていく。小惑星探査機「はやぶさ」以来、子どもたちの関心は有人宇宙飛行だけでなく、さまざまな探査機にも向いている。この本を読んだ子どもはきっと、「あかつき」が届けてくれた画像データによって明らかになる“あかつき”(金星)にも、興味を持つと思う。巻末には、物語に登場した専門用語の解説と、監修者である金星探査機「あかつき」プロジェクトマネージャの中村正人氏とIR2カメラ開発・運用担当の佐藤毅彦氏からのメッセージも載っている。

絵本『ほしのこどもたち』 は表紙にふたご座が大きく描かれているので「星座を紹介する神話かな」と思ったら、双子の兄弟が多くの登場人物とかかわりながら夜空と地上で繰り広げるストーリーだった。作者によるとこの題名は「死を迎えた星が爆発し、飛び散った元素と同じもので人体も成り立つことから、実は人間も“ほしのこどもたち”だといえる」として付けたそうだ。いろいろなキャラクターが飛んだり落ちたりする、躍動感あふれる絵がかわいい。

同じ絵本でも『眠れなくなる宇宙のはなし』 『眠れなくなる宇宙といのちのはなし』 は、「見覚えのある題名だ」と思う人が多いはず。佐藤勝彦氏の同名既刊本を原作にした絵本で、それぞれ2016年の夏と今年の夏に出版された。原作である『ますます眠れなくなる宇宙のはなし』 も、この夏に加筆文庫化されたので併せて紹介しておく。地球人がほかの天体の生命を探すというテーマは知的好奇心をかき立てられるが、同時に「電波通信のような高度な技術を持つ文明がどれほど長く維持されるか」が鍵であることに驚く。つまり「地球外生命も私たち地球人も、技術的繁栄をしたまま滅びずにいるか」が重要な命題だ。絵本では「地球の近くまで来た宇宙人が、戦争ばかりしている人間は危険な生き物だから平和になるまで見守っているか、宇宙人も戦争ばかりしてすぐ滅んでしまいこられないのか」とつづっている。地球(日本)の平和が気掛かりで、眠れなくなりそうだ。

次は、ちょっと季節外れのタイトルになってしまったが、とても面白いのでぜひ紹介したい『大人もおどろく「夏休み子ども科学電話相談」』 。ラジオで実際に聴いた人もいると思うが、NHK第一放送では1984年から夏休み期間中、小中学生の質問電話に専門家が答える番組を放送している。昨夏の番組内容から科学に関係深い質問を抜粋し、図版や解説などを追加してわかりやすくまとめたのがこの本だ。天文・宇宙の分野は、国司真先生と永田美絵先生が担当している。子どもらしい純粋な質問から研究者レベルの高度な質問、ときには大人が見過ごしている疑問などを学ぶことができる。例えば「空はどの高さからですか?」という質問に国司先生は、「辞書には『天と地の間のむなしいところ』って書いてあった。ああぁ〜、これは答えになってないなあって思ったよ」と言い、背後で周りの先生も爆笑した後「だいたいね、立って見上げる視線の上が空って、普通の人は考えるかもしれない。小さなアリなら、地上から数ミリ上がアリさんにとっての空になるね。だから、誰が考えるかによって空のイメージが変わってくるんじゃないかな? あなたが1ミリでも離れていれば空って考えたのは、とっても観察力が鋭いと思うの」と、正解を言いながらも質問した子どもの意見も尊重した。先生たちの人柄が伝わる番組のテイストを残しながら編集されているので、読み物としても面白い。なぜ? どうして? という疑問にどう答えるか科学的な思考法と、年齢や知識の差を超えた心の通う会話をかいま見ることができる。ちなみに、天文以外の分野だが「なぜサナギになるのか」という小学2年生の質問に答えた矢島稔先生は、こまかく説明した後に「複雑な変態ホルモンがあるおかげで! というのを今のお答えにしておきます」「あなたが大学院に行ってそれを調べてくださいね。これは絶対おもしろいと思う。今、ぼくがあなただったらやるなぁ! って」と話し、32年間毎年出演した番組を引退した。80歳を超えてなお、研究したいという姿が伝わってきた。

『星のきほん』 『惑星のきほん』 は同じシリーズで、それぞれ2007年と2008年の旧版から改訂された天文入門書。新版はいずれも「ゆかいなイラストですっきりわかる」というサブタイトルどおり、表紙も本文もイラストが前面に出されて、初心者にとって親しみやすい雰囲気になった。もちろん、内容もしっかり更新されている。『星のきほん』では各章末に付けられた「きほんミニコラム」で、小惑星探査機「はやぶさ」や地球外知的生命体について、さらに宇宙観の移り変わりなど、最新の話題にふれている。『惑星のきほん』も、近年の惑星探査などで新たにわかった情報を盛り込んだ内容に改められた。見開きに一問一答でまとめてあるから、興味を持った惑星あるいは項目から読んでもいい。

最後は、石川雅之氏のコミックス『惑わない星』 。『月刊モーニング』連載中で、第1巻が昨年、第2巻が今年、それぞれ単行本化された。表紙の魅惑的な女の子は擬人化された惑星たちで、1巻が緑色の髪とドレスに白いファーのような大気をまとった「地球」、2巻がクモのような模様をアレンジした衣装の「水星」(左)と、金色で丈の短い衣装を着て風神のような風袋を持つ「金星」(右)。こんな具合に「火星」「木星」「土星」「天王星」「海王星」が、汚染されてしまった「地球」を救うために集まった。これから彼女たち惑星が、どんなふうに地球を救うのか気になるところだ。設定に慣れるまでちょっと世界観をつかみにくいが、惑星たちの天文的キャラクターを理解すると面白い。木星の重力や金星のスーパーローテーション、(同作者『もやしもん』の菌キャラクターのような)衛星など、天文ファンがニヤリとする場面もある。

(紹介:原智子)