Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年3月号掲載
いつか訪れるリスクとの正しい向き合い方

2016年の日本はさまざまな災害が起こった。4月の熊本地震、8月の台風10号、10月の鳥取県中部地震、12月の風害による新潟県糸魚川市の大火など、そのたびにあらためて自然の脅威を思い知らされた。そして、災害は宇宙からも襲ってくる。『宇宙災害』 は、宇宙が地球に及ぼす影響によって起こる災害について、具体的な事例を紹介しながら、なぜ被害が起こるのかを解き明かしていく。太陽フレアによる通信障害や世界規模の停電、宇宙ゴミの人工衛星衝突、隕石落下など、すでにいくつもの宇宙災害は起こっている。さらに月面基地や火星有人探査など、将来の宇宙開発で警戒すべきことについても触れている。この本を読むと、私たちは足元の地震や大気中の気象変化に心を配るだけでなく、頭上の宇宙空間にも注意をはらわなくてはいけない時代を生きているのだと実感する。科学書にはめずらしく表紙は上品な温もりを感じるフランス装で仕上げられていて、折り返しには「天の川銀河を旅する太陽系に暮らす私たちが、これからも地球で健やかに生きていくための教養が詰まった1冊」と書かれている。

宇宙で警戒すべき危機の一つである宇宙ゴミについて専門的に解説した本が、その名もずばり『スペースデブリ』 である。著者は1993年からJAXAデブリ発生防止標準の制定にかかわり、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)のデブリ低減ガイドラインの起草や国連の各種デブリ規制文書の作成委員会に参加してきた。長年にわたりデブリ関係業務にあたってきた彼が、国際政治・国際法の視点からデブリ問題に関心を寄せる専門家やエンジニアに対して書いた解説書であり、かなり専門的な内容になっている。資料的価値の高いものであり、関係者にとっては貴重な一冊だろう。

さて、そんな危険性と常に隣り合わせの宇宙では、すでに多くの宇宙飛行士が活動してきた。国際宇宙ステーション(ISS)に長期間滞在して仕事をする宇宙飛行士にとって、閉じられた空間に限られた物資だけで暮らすことは大きなリスクをともなう。そんな究極ともいえる現場(ISS)で日本人初のコマンダー(船長・司令官)を務めた若田光一さんが、危機管理の方法も含めて彼の仕事術を明かしたのが『一瞬で判断する力』 だ。彼が宇宙飛行士という仕事を通して得た教訓と、出会った先輩や同僚から得た知識の中から、地上で暮らす私たちの仕事や日常でも役に立つ事柄を紹介する啓蒙書。若田さんいわく「宇宙飛行士は特殊な職業だとも思われるかもしれない」。しかし「直面した問題はどこの会社のどの管理職でも抱えるようなこと、根本的な部分は変わらない」と述べ、「現場と管理部門の間で板挟みにあう課長のような立場」から語ってくれる。その経験から、タイトルにもなっている“一瞬で判断する”ために必要なことを、「想像する」「学ぶ」「決める」「進む」「立ち向かう」「つながる」「率いる」という7つのキーワードでひもとく。

次の本は、「もしも巨大隕石が地球に衝突したら?」「富士山が噴火したら?」というありそうな仮定から、「宇宙人が地球にやってきたら?」「恐竜がよみがえるとしたら?」など映画のストーリーのような妄想まで、50個以上の“もしも”を漫画やイラストで紹介する『「もしも」の世界』 。一見、荒唐無稽な質問に思えても、子供なりに「もしもこうだったら」と考えて推理し理解することは、大切な思考訓練でもあるのだ。

疑問を持つことが大事なのは、子供だけではない。大人でも「マイナスイオン」や「パワーストーン」などを鵜呑みにして、科学的な思考をしない人がいる。『賢者の石、売ります』 は、そんな似非科学を許せない会社員が主人公の物語。科学の正当性を声高に主張するだけだった彼が、家族や同僚の心に触れ少しずつ変化する。勤め先が一度は手を引いた宇宙産業に開拓の余地はあるのか、惑星探査計画に寄付した彼の気持ちは何なのか。科学だけでなく、“人間関係のリスク”についても考えさせられる。

これからも天災は起こるだろうし、地震など予見された災害もある。せめて私たちはこれらの出来事に対して正しく警戒し、被害を少しでも減らす準備と判断を怠ってはならない。

(紹介:原智子)