月刊ほんナビ 2026年10月号
📕 「見えないものを見ようとして」
紹介:原智子(星ナビ2026年10月号掲載)
『星の王子さま』の主人公は、王子さまから「ヒツジの絵を描いて」と頼まれる。何枚描いても気に入ってもらえず、最後に箱の絵を描いて「君のほしいヒツジはこの中にいる」と言う。すると王子さまは「こういうのがほしかった」と喜ぶ。物理学に「シュレーディンガーの猫」という有名な思考実験がある。箱を開けて見るまで、猫の状態が確定しないという考え方だ。さて、宇宙はどうだろうか。ビッグバンも、ブラックホールも、ダークエネルギーも、その姿を直接見ることはできない。天文学者たちは、光や電波、重力波などのわずかな手がかりを集めながら、見えない宇宙の姿を少しずつ描き出してきた。今回は「見えないものを見る」をテーマに、宇宙の謎に挑む本を紹介していこう。
『はじめまして宇宙論』は、重力や宇宙背景放射、ダークマターなど、目に見えない宇宙の仕組みを、平易な言葉と親しみやすいイラストで紹介するスペイン発の科学絵本。難しい数式を使わずに、わずか56ページの中に宇宙論を理解するうえで必要なキーワードを凝縮して紹介している。それらを一つずつ学ぶうちに、宇宙誕生から現在までの大きな流れが見えてきて、おのずと現代宇宙論の基本的な考え方をつかむことができる。中高生や天文初心者はもちろん、「まずは宇宙論の全体像を知りたい」という人や、「宇宙論で重要な基礎項目をもう一度整理しておきたい」という人にもおすすめ。
『電波天文学入門』は、電波の基礎から、電波望遠鏡による観測方法、観測データの分析まで、電波天文学の基本を丁寧に教えてくれる教科書。「目に見えない電波をとらえることで、可視光では見えなかった宇宙の姿がどのように浮かび上がるのか」を初学者にもわかりやすく解説する。観測の仕組みだけでなく、そこで得られたデータをどう扱うのかまで知ることができる。用語の説明や数式の導出も丁寧で、研究に使える具体的な数値を数多く掲載。電波天文学に関わる人ならきっと、手元に置いて活用できる一冊。
次の本は、ズバリ『見えないブラックホールを見る』。光さえ脱出できないため直接見ることのできないブラックホール。その存在を2019年に初めて「目に見える形」で示したのが、「イベントホライズンテレスコープ(EHT)」プロジェクトだ。世界各地の電波望遠鏡を連携させ、一つの巨大な望遠鏡のように使うことで、見えないブラックホールの「影」を浮かび上がらせるまでには、長い研究の積み重ねと国際協力があった。EHTの日本側リーダーを務めた著者が、その道のりをブラックホール研究の歴史とともに臨場感をもってつづる。
『ブラックホール天文学[改訂版]』は、新天文学ライブラリー第3巻として2016年に発刊された専門書に、この10年間で新たに発表された研究成果を加えた改訂版。ブラックホールはなぜ「見えない」のに、その存在を知ることができるのか。さまざまな観測的証拠を手がかりに、標準円盤モデルや高温降着流モデルなどを解説。さらに、ブラックホールの進化と研究の最前線を紹介する。改訂版には、ブラックホールシャドウの撮像や「ブラックホール合体と重力波」が盛り込まれている。『見えないブラックホールを見る』でその姿をとらえるまでの道のりを知った後に読むと、ブラックホール天文学の現在がさらに深く見えてくる。
最後は、京都大学で人気のレクチャーを書籍化した『宇宙科学入門』。同大の全学共通科目のこの講義は、さまざまな分野の専門家である研究員や教員がリレー形式で行っている。太陽系天体や系外惑星、恒星、ブラックホール、銀河、宇宙背景放射について、研究者たちがどのような手法で宇宙を観測し、その正体に迫ってきたのかを解説する。文系学生も受講するため、直感的にイメージしやすいようビジュアルも多用されている。研究課題へのアプローチの仕方や研究上の苦労話なども紹介され、「人の営み」を感じる教科書ともいえる。天文学では「たいせつなことは、目に見えない」からこそ、科学者たちはさまざまな方法で宇宙の謎を解き明かそうと、挑み続けているのだろう。




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