月刊ほんナビ 2025年9月号

📕 「宇宙で働き宇宙を仕事にする」

紹介:原智子(星ナビ2025年9月号掲載)

7月にオーストラリアへ行く機会があった。時差は日本より1時間遅れとほとんど変わらず、季節は南半球ゆえ冬だが比較的温暖で、あまり体への負担を感じずに過ごすことができた。ところが、ふとしたことで感覚が狂うことがあった。それは、太陽が北に見えることだった。「目的地は南東」と歩き始めたとき、無意識に陽のさす方向を南だと“感じて”しまい、自分の方向感覚が混乱したのだ。「もしも、宇宙という重力も上下も定まらない空間に訓練せずに行ったら、どんな感覚になるのだろう」と想像するとちょっと落ち着かない気持ちになった。今月はそんな特殊な環境である宇宙に関わる仕事について探ってみた。

『未来が楽しみになる 宇宙のおしごと図鑑』(Amazon)

まずは、『宇宙のおしごと図鑑』から。この本を読む小学生が大人になる2040年ごろにどんな宇宙関連職業があるのか、すでに働いている人の談話も交えながら紹介していく。たとえば、宇宙飛行士の周りには地上からサポートするフライトディレクタ(運用管制官)がいるし、航空宇宙医学の知識を持つフライトサージャン(宇宙専門医)が必要だし、宇宙服デザイナーなんてのもある。今後は、宇宙旅行のプランナーや宇宙食シェフなどの宇宙サービス業も増えるだろう。さらに、宇宙弁護士や宇宙保険会社なども当たり前になる。そう考えると「宇宙の仕事は、あなたが新しく作れる」ともいえる。

『めざせ!未来の宇宙飛行士』(Amazon)

とはいえ、やはり人気の職業は宇宙飛行士だ。『めざせ!未来の宇宙飛行士』は、宇宙の魅力を伝えるキャスターで宇宙飛行士講座を開講している著者が、これから「宇宙飛行士になりたい」と夢見る子どもたちに贈る一冊。過去の選抜試験と訓練の担当者から合格ポイントや必要な資質を聞き、宇宙飛行士の山崎直子さんと金井宣茂さんから受験アドバイスや宇宙体験を聞く。どれもリアルな声で、本気で宇宙飛行士をめざす子どもたちの心に響くだろう。そして、「仮想選抜試験対策」の挑戦は継続的に取り組むことで、たとえ宇宙飛行士になれなくても心と体が成長して「自分の夢をかなえる力」が身につくに違いない。

『宇宙を編む はやぶさに憧れた高校生、宇宙ライターになる』(Amazon)

ところで、宇宙に関わる仕事に「宇宙本を執筆したり、新聞や雑誌で宇宙の記事を書いたりすること」がある。『宇宙を編む』は高校生のとき探査機「はやぶさ」に感動した著者が、講演会での出会いをきっかけに宇宙ライターになった自伝。ロケット打ち上げ現場の取材エピソードや失敗談などから、著者の熱意が伝わってくる。

『宇宙でウンチ』(Amazon)

次は、ちょっと変わったテーマだけれど、宇宙飛行士の生活に欠かせない大切な話。『宇宙でウンチ』は、人類が初めて宇宙に行ったときから現在までの「宇宙で排泄する方法」の進化と苦労を描いた絵本。「うんち」という単語に無邪気に反応する子どもたちはもちろん、大人にとっても興味津々の課題。つい笑ってしまうようなエピソードの裏に、科学と人間の知恵がしっかり息づいている。

『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』(Amazon)

最後は、2022年にJAXAを退職した宇宙飛行士の野口聡一さんが今年出版した2冊。『50歳からはじめる定年前退職』は人生の折り返し点で悩みを抱える人たちに、前向きな一歩を踏み出す勇気を与えてくれる実用書。世界(宇宙)を股にかけて第一線で活躍した有能な人が、実は普通のサラリーマンと同じように職場の苦労や今後の不安を感じていたと知ると、それだけで「自分が悩むのも当然だ」と思えてくる。そのうえで、具体的にどうすればよいのか考え方や実践方法のヒントを示してくれる。収入・モチベーション・アイデンティティの三重沈下に悩む人にとって心強い指南書。

『自分の弱さを知る 宇宙で見えたこと、地上で見えたこと』(Amazon)

そんな野口さんと、今年テレビ東京を退職した大江麻理子さんの対談集が『自分の弱さを知る』。宇宙飛行士とアナウンサーという立場で以前から対話を重ねていた二人が、セカンドキャリアに踏み出したこの時期に何を語り合うのか。宇宙と地上で積み重ねた経験や挫折など、興味深い話題が詰まっている。大江さんの端的でありながら柔らかな語り口が、二人の気持ちを静かに、でもしっかりと読者に伝えてくれる。

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