月刊ほんナビ 2025年5月号

📕 「生命と水と物質を探る」

紹介:原智子(星ナビ2025年5月号掲載)

『アストロバイオロジー シリーズ現代の天文学 18』(Amazon)

私の生まれ育った信州では、春の彼岸ごろ植物がいっせいに活動を始める。冷えて堅かった土に雪どけ水が浸みるとほぐれて黒くなり、緑色の芽が出て色とりどりの花を咲かせる。まさに“生命の息吹”を感じる季節だ。漆黒の闇のような宇宙にも「生命」があると考えると、地球も孤独ではないと思えてくる。

そんな宇宙における生命について学ぶときに役立つ教科書が『アストロバイオロジー』だ。文字通り「宇宙生物学」で、詳しくいうと「宇宙を舞台として生命を宿せる場やその存在を探査し、地球上のみならず生命の起源・進化・分布・未来について研究する学問」と定義されている。「我々の世界以外にも生命はいるのか」という問いは古代ギリシャ時代からある根本的な謎だが、「アストロバイオロジー」という言葉が最初に登場したのは1903年に書かれたSF小説だという。さらに、内容を定義したのは1935年にフランスでスタンフェルドが科学誌に掲載した記事だそうだ。天文学・地球科学・生物学・生命化学・物理学などを横断するとても学際的な学問である。この本の内容も多岐にわたり、第1章で宇宙の歴史・生命の材料と環境について、第2章で生命の起源・地球上の生命進化・人工生命について、第3章で太陽系内の生命と探査について、第4章で太陽系外の生命と探査について解説している。新しい分野で専門書も限られるため、「現代の天文学」シリーズとしては特例で巻末の参考文献に欧文の原著論文やレビュー論文も掲載している。

『生命起源の事典』(Amazon)

この教科書を読むときに役に立ちそうなのが『生命起源の事典』だ。アストロバイオロジーを学ぶのに必要な約140の項目について、詳細キーワードで区切りながら1ページか見開きにまとめて端的に解説する。「生命の起原および進化学会」監修のもと、学会員が編者になり、学会員を中心とした専門家101人が執筆した。もちろん、最初から丁寧に読み進めることもできるが、「事典」として傍らに置き、興味のある項目あるいは調べたい言葉についてページを開けばよい。その際、文中のところどころに書かれた参照項目を目印に、関連ページを併せて読むといっそう理解が深まる。

『宇宙の水を求めて 水探査から始まる宇宙大航海』(Amazon)

宇宙で地球と似た生命を探すとしたら、「ハビタブルゾーン」について考察することになる。地球型生命にとってハビタブル(生存居住可能)な条件のひとつに「液体の水」がある。『宇宙の水を求めて』は「生命との関わり」から「宇宙での水探査」まで、水に関するあらゆる疑問に答えてくれる。Q&A形式で書かれているから、中高生や一般の人も読みやすいだろう。人類を再び月に送る「アルテミス計画」が進むなか、月での長期滞在を目指した水探しがホットな話題になっている。いまこそ、水についてあらためて学ぼう。

『星間物質と星形成 [第2版] シリーズ現代の天文学 6』(Amazon)

さて、ここからは“物質”に注目していく。宇宙は多くの銀河から構成され、その銀河を構成するのは「恒星」と「星間物質」だ。そんな星間物質の性質を知り、最新の星形成シナリオを探るのが『星間物質と星形成[第2版]』だ。2008年初版発行後の研究成果を踏まえて、分子雲同士の衝突による大質量星形成という新たな知見が加わった。

『地球の測り方 <small>宇宙から見る「水の惑星」のすがた』(Amazon)

一方、自分たちの足元である地球について注目したのが『地球の測り方』。地表と内部の物質や構造、天体としてのふるまい、時代による変形や気象変動などを測地学の観点から解説している。測地学自体は数千年前から名だたる学者たちが取り組んできた分野で、20世紀後半には「すでに成熟した学問」と考えられていた。だが、ここ数十年の人工衛星など観測技術の発展により詳細な地表変化や重力変化も観測できるようになった。また、気象や火山の観点からも、大いに注目を集める分野になった。複数の要因が絡み合い変化する地球のメカニズムを知ることで、生命がどうなるのか考えると興味深い。

『元素生活 完全版』(Amazon)

最後は、ズバリ元素に注目した『元素生活 完全版』の文庫版。当コーナー(2025年1月号)で掲載した『元素手帳』でおなじみの寄藤文平氏によるユニークな本が、手軽なサイズになって登場した。ハゲ(ハロゲン)やパンク(蒸発しやすい亜鉛族)などのヘアスタイルで元素の「族」を表し、個々の性質や働きを個性的なキャラクターで紹介する。1つ2つ(一人一人⁉)を見ていると「彼らで宇宙も生命も成り立っているのだ」と愛おしくなる。最後は「4. 元素の食べ方」を見て(読んで)、自分の命を大切に維持しよう。

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