2025年1月12日、約2年2か月ぶりに火星と地球が最接近します。約9600万kmまで近づきます。
2024年11月から2025年4月ごろまで明るく見え、特徴的な赤っぽい輝きが楽しめます。ふたご座の星々と並んだりプレセペ星団と近づいたりする光景も見ものです。
見かけサイズは小さめですが、天体望遠鏡での観察やCMOSカメラでの撮影もしてみましょう。
目次
火星を見つけよう
目をひく赤い星
火星は地球との位置関係(距離)によって明るさが大きく変わる惑星です。今シーズンの火星は2024年11月上旬から2025年3月中旬までの約4か月間、マイナス等級で(いわゆる1等星よりも明るく)輝きます。1月12日の地球最接近の前後にはマイナス1.4等級に達し、同時期に宵空で輝く木星には及ばないものの、よく目立ちます。
星座の中を動く火星
地球から見ると、火星は背景の星々の間を動いていくように見えます。
火星は天球上を西から東へと「順行(じゅんこう)」しながら、2024年10月下旬に「ふたご座」から「かに座」の領域へと移ります。12月8日の「留(りゅう)」を境にして、天球上を東から西へと「逆行(ぎゃっこう)」するようになり、逆行期間中の1月12日に地球最接近、17日に「衝(しょう)」となります。また、このころにふたご座の領域に戻ります。
その後、2025年2月24日に再び「留」を迎えると、火星の動きは逆行から順行へと変わります。4月中旬にはかに座、さらに5月下旬には「しし座」の領域に入ります。
4月ごろまでは、ふたご座のポルックス・カストルを目印にすると並び方の変化が良くわかります。期間中の火星の動きを、スケッチや写真で記録に残すと面白いでしょう。
火星に関する現象カレンダー:
ポルックスやレグルス、プレセペ星団と接近
日付 | 現象 | 備考 |
---|---|---|
11月中旬 ~12月下旬 |
かに座の散開星団M44プレセペ星団と接近 (» 解説) | 深夜~明け方 最接近12月3日ごろ |
12月 8日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を東→西に動く(逆行する)ようになる |
12月18日 | 月(月齢17/18)と接近 (» 解説) | 宵~翌19日明け方/北極で火星食(日本時間18時ごろ) |
1月12日 | 地球と最接近 (» 解説) | 22時37分/9608万km |
1月14日 | 月(月齢14)と接近 | 未明~明け方/北アメリカ、西アフリカなどで火星食(日本時間13時ごろ) |
1月14日 | 月(月齢14/15)と接近 | 夕方~翌15日未明 |
1月17日 | 衝(しょう) | 太陽の反対に来る(日の入りのころ昇り、深夜に南に見え、日の出のころ沈む) 日付は赤道座標系(黄道座標系では16日) |
1月中旬 ~2月上旬 |
ふたご座の1等星ポルックスと接近 | 夕方~明け方 最接近1月22日ごろ |
2月 9日 | 月(月齢11)と大接近 | 夕方~翌10日未明/中国、シベリアなどで火星食(日本時間10日5時ごろ) |
2月24日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を西→東に動く(順行する)ようになる |
3月 8日 | 月(月齢9)と並ぶ | 深夜~翌9日未明 |
3月 9日 | 月(月齢9/10)と並ぶ | 夕方~深夜 |
3月中旬 ~4月上旬 |
ふたご座の1等星ポルックスと接近 | 深夜~未明 最接近3月30日ごろ |
4月 5日 | 月(月齢7)と接近 | 夕方~翌6日未明 |
5月 1日 | 東矩(とうく) | 太陽から90度東に離れる(日の入りのころ南に見え、深夜に沈む) 日付は赤道座標系(黄道座標系では4月21日) |
5月 3日 | 月(月齢6)と並ぶ | 深夜 |
5月 4日 | 月(月齢7)と並ぶ | 夕方~深夜 |
4月下旬 ~5月中旬 |
かに座の散開星団M44プレセペ星団と大接近 | 夕方~深夜 最接近5月5日ごろ |
6月 1日 | 月(月齢5)と大接近 | 夕方~深夜 |
6月上旬 ~下旬 |
しし座の1等星レグルスと大接近 | 夕方~宵 最接近17日ごろ |
6月30日 | 月(月齢5)と接近 | 夕方~宵/北太平洋などで火星食(日本時間10時ごろ) |
(過去の現象) | ||
10月中旬 ~下旬 |
ふたご座の1等星ポルックスと並ぶ | 深夜~明け方 最接近20日ごろ |
10月22日 | 西矩(せいく) | 太陽から90度西に離れる(深夜に昇り、日の出のころ南に見える) 日付は赤道座標系(黄道座標系では14日) |
10月23日 | 月(月齢21)と接近 (» 解説) | 深夜~翌24日明け方 |
11月20日 | 月(月齢19)と接近 (» 解説) | 深夜~翌21日明け方 |
※2025年7月以降は日の入り60分後の火星の高度が20度前後と低くなり、火星の明るさが1.5等級以下になるため略。
モバイルアプリを活用
土星、木星も見よう
表面の模様を観察しよう
火星は小さい惑星なので、地球と接近するといっても見かけはあまり大きくなりません。表面の模様を見るためには天体望遠鏡が必要です。
火星は約24時間40分で自転しているので、見える模様も日時によって変化します。シミュレーションソフトなどで、どんな模様が見やすいのか確かめておきましょう。とくに目立つのは「大シルチス」と呼ばれる暗い部分です。
- 像が揺れると見づらいので、風の弱いときが観察に適しています。冬季は風が強く、気流が乱れていることが多いですが、好条件を逃さないようにしましょう。また、火星が南中する(真南に来る)前後の高いところにあるときは大気の影響が小さくなり、低いときよりも見やすくなります。
- 一見しただけでは、模様の濃淡は見えません。じっくり眺めていると、少しずつわかるようになってきます。
- 公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、大きい望遠鏡で火星を見ることができます。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」で検索してみてください。
見かけの大きさ
地球最接近となる1月12日の火星の見かけの大きさ(視直径)は14.6秒角で、同じ日の木星の約1/3です。また、120倍に拡大すると、肉眼で見た満月とほぼ同サイズになります。視直径が10秒角を超える11月中旬から3月上旬は、口径10cm程度の天体望遠鏡でも模様が比較的見やすいでしょう。小ささは否めませんが、次に視直径が15秒角を超えるのは2031年4月と6年も先なので、当面は小さい火星を楽しむほかありません。
火星を撮影してみよう
カラーCMOSカメラを天体望遠鏡に接続して惑星を動画撮影し、その中から写りの良いフレームだけを選んで多数枚コンポジットすると、精緻で滑らかな惑星像を得ることができます。天体画像処理ソフトウェア「ステライメージ」を使うと、動画からのコンポジットはもちろん、カラーバランス調整やディテール強調まで簡単かつ詳細に行えます。画像を「作品」に仕上げてみましょう。
オンラインショップ
アストロアーツのオンラインショップでは天文グッズを多数取り扱っています。天体望遠鏡で火星の模様を観察してみましょう。火星と月との接近現象などを眺めるときには双眼鏡が便利です。赤色ライト付きボールペンや火星儀などもあります。
火星に関するマメ知識
赤い大地
太陽系で地球の1つ外側を公転している火星は、大きさ(直径)が地球の半分ほどしかない、水星に次いで小さい惑星です。表面の大部分を占める平原が酸化鉄(鉄さび)で覆われているため、火星は赤っぽい色に見えます。海と呼ばれる暗い部分や、長さ3000km深さ8kmに及ぶ太陽系最大級の峡谷「マリネリス峡谷」、周囲と比べて27kmも高い太陽系最大級の山である「オリンポス山」といった地形もあります。
両極部分には水と二酸化炭素の氷でできた極冠(きょくかん)があり、白っぽく見えます。極冠の大きさは火星の季節変化に応じて変化し、夏には小さく、冬には大きくなります。
2年2か月ごとに起こる
地球との接近
火星の公転周期(太陽の周りを1周する期間)は約687日です。火星が太陽の周りを1周する間に地球は約2周します。この公転周期の違いから、2つの惑星は約2年2か月ごとに距離が近づき、軌道上で隣り合わせになります。
地球と火星の最接近距離は、毎回異なります。火星の軌道は楕円形なので、軌道上のどこで地球と接近するかによって距離が大きく変化するのです(地球の軌道も楕円形ですが、火星ほどはつぶれていません)。2018年7月31日には6000万km弱まで近づき「大接近」として話題となりました。反対に「小接近」のときには1億kmも離れます。
※接近の度合いは「大接近」「中接近」「小接近」などと表現されますが、「○万km以内が大接近」のような明確な基準はありません。
火星探査
火星に生命は存在するのか(過去に存在したのか)、液体の水はある(あった)のか、地形はどのように作られたのか、大気が薄いのはなぜか、2つの衛星フォボスとダイモスの起源は、…。惑星や太陽系の形成と進化(時間変化)といった科学的興味から、将来の人類の移住可能性という観点まで、火星は人々の心を引き付けてやまない惑星です。
1960年代には早くもアメリカと旧ソ連が火星探査を始め、マリナー計画やバイキング計画によって詳しい地表の様子などが明らかにされていきました。近年ではアメリカNASAの「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」や「メイブン(MAVEN)」、ヨーロッパ宇宙機関の「マーズエクスプレス」、インドの「マンガルヤーン」、アラブ首長国連邦の「HOPE」などが火星を周回して探査を行いました(一部は現在も稼働中です)。
周回軌道からだけでなく、地表に着陸した探査車による調査もこれまでに複数行われています。NASAの「キュリオシティ」は2012年の着陸以来、10年以上にわたって地表を移動しながら土壌調査などの探査を行っています。
2021年に着陸したNASAの「パーサビアランス」のミッションでは、地球外の天体では初となる小型ヘリ「インジェニュイティ」の飛行実験にも成功しました。同じく2021年には中国の「天問1号」も火星に到着し、周回機と探査車「祝融」での探査を行いました。
日本では、火星の衛星からのサンプルリターンを試みる「MMX」計画が進められていて、2026年度の打ち上げを目指しています。今後も火星に関する様々な発見や研究成果が期待されます。