天の川銀河に隠されていた、140年前の超新星爆発

【2008年5月16日 Chandra News

われわれの天の川銀河に、記録的に新しい超新星残骸が潜んでいたことが明らかとなった。G1.9+0.3と呼ばれるこの残骸の位置で超新星爆発が起こったのは、たった140年前のことらしい。


X線と電波観測によるG1.9+0.3の合成画像

X線と電波観測によるG1.9+0.3の合成画像。クリックで拡大(提供:X-Ray(NASA/CXC/NCSU/S.Reynolds et al.); Radio(NSF/NRAO/VLA/Cambridge/D.Green et al.)

2MASSがとらえた天の川銀河の赤外線画像

赤外線サーベイ2MASSでとらえた天の川銀河(G1.9+0.3は四角の位置にあり、右側の赤っぽく見える銀河中心からは1000光年離れている)。クリックで拡大(提供:2MASS/UMass/IPAC-Caltech/NASA/NSF/CfA/E.Bressert)

われわれの天の川銀河でもっとも若いとされてきた超新星残骸は、約330年前に爆発が起こった「カシオペヤ座A」だ。しかし、天の川銀河の中心付近では、そのさらに後に超新星爆発が起こっていたことが明らかとなった。20年ほど前に見つかった超新星残骸G1.9+0.3は、その爆発のなごりである。

超新星残骸G1.9+0.3が1985年に見つかったとき、爆発の年代は残骸の大きさから400年〜1000年ほど前と推定された。しかし22年後の2007年初めに観測したところ、残骸が急速に拡大しているようすがとらえられた。このことは、G1.9+0.3が当初考えられていた以上に爆発から間もない、つまりとても若い残骸であることを示している。

右の画像1枚目は、1985年に超大型電波干渉計(VLA)が行った観測による画像(青色)に、2007年にNASAのX線天文衛星チャンドラが撮影した画像(オレンジ色)を重ねたものである。

両者の差から、G1.9+0.3のもととなった爆発は、たった140年前に起こっていたことがわかった。今年に入ってから行われた超大型電波干渉計(VLA)による観測も、これを裏付けている。

G1.9+0.3が位置しているのは、天の川銀河の中心付近、つまりガスやちりがひじょうに濃い領域である。そこで超新星爆発が起こったとしても、可視光線では最大でも1兆分の1の光しか地球に届かない。そのため、140年前に観測されることはなかった。

「幸いなことに、爆発後に広がるガスの雲は、数千年もの間電波やX線で明るく輝きます」と米・ノースカロライナ州立大学のStephen Reynolds氏は話す。X線や電波望遠鏡を使えば、ガスやちりを見通して、可視光線では見ることのできない姿をとらえることができる。

現在、天の川銀河のような銀河で超新星爆発が起こる割合は、1世紀に3個程度と考えられている。英・ケンブリッジ大学のDavid Green氏は、「この割合が正しいとすれば、カシオペヤ座Aより若い超新星残骸が、あと10個ほど存在するはずで、そのうちの1つをやっと見つけたのです」と述べている。

超新星爆発は周囲のガスを加熱したり押したりするとともに、大量の重元素をばらまくので、そのペースを知ることは重要だ。新しい恒星が生まれるきっかけとなることで、恒星の生死のサイクルを作り出しているのである。

G1.9+0.3が興味深いのは、記録的な若さだけではない。残骸が拡大する速さや粒子のエネルギーの異常な強さも注目されている。Reynolds氏は次のように話している。「天の川銀河内に、このような特性をもつ天体はほかにはありません。G1.9+0.3の存在は、星がどのようにして爆発するのか、またその後どんなことが起こるのかを知る上で、ひじょうに重要なのです」