「あかり」が見た星形成領域と超新星残骸

【2007年4月2日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース

昨年2月に打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星「あかり」の初の科学的成果が発表された。星の誕生や終末期、超新星残骸、活動銀河核、遠方銀河など、銀河系内の物質進化に関する研究結果を紹介しよう。なお、アストロアーツニュースでは「あかり」の成果について、今後数回に分けて紹介する予定だ。


「あかり」が明らかにした星形成の系譜

「あかり」のIRCがとらえたIC4954/4955領域

「あかり」のIRCがとらえたIC4954/4955領域。波長9(青)・11(緑)・18(赤)マイクロメートル(1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)で撮影して着色した3枚の画像を合成した。スケールは縦が13光年、横が20光年。クリックで拡大(提供(以下同):石原大助氏、JAXA

「あかり」のFISがとらえたIC4954/4955領域

同じ領域をFISで撮影。65・90・140マイクロメートルの3波長で撮影して合成した。クリックで拡大

「あかり」のIRCがとらえたIC4954/4955周辺領域

「あかり」のIRCがとらえたIC4954/4955周辺領域。さしわたし110光年。クリックで拡大

「あかり」はこぎつね座の方向にある反射星雲「IC4954/4955」周辺領域を観測し、1光年から100光年のスケールで、3世代にわたる星形成連鎖が起きている証拠とその現場をとらえた。「あかり」の画像には、第1世代の星が誕生した暗い領域をはじめ、第2世代となる質量の大きな若い星によって侵食され円弧を描く星雲の姿も見られた。さらに周辺からは、生まれたばかりであることを示す第3世代の星からの放射も検出された。この研究結果を発表したのは、東京大学大学院の石原大助研究員を中心としたチームだ。

超新星爆発や質量の大きな星からの恒星風で星間物質がはき集められると、その領域の密度が高くなり、星形成が誘発される。しかし、生まれたばかりの星が放つ光は周辺の星間物質に吸収されてしまうため、可視光による観測は困難だ。一方、吸収された光は赤外線で再放射されるため、誕生間もない星の観測には、赤外線が有効となる。「あかり」に搭載された赤外線カメラのおかげで、星間物質に隠された領域を垣間見ることができるのである。

「あかり」には、2台の高性能赤外線カメラが搭載されている。公開された画像の一枚(一番上)は、そのうちの近・中間赤外線カメラ(IRC)によるものである。比較的可視光に近い、3つの波長の赤外線で撮影したデータを合成した画像で、2つの円弧状構造が見える。白い十字印で示された質量の大きな星が、周りの星間雲を掃き集めた結果だ。また、赤い丸印は生まれたばかりの星の分布を示す。掃き集められた星間雲の中だけでなく、その間の領域にも存在することがわかる。

同じ領域をもう1つの赤外線カメラ、遠赤外線サーベイヤ(FIS)で撮影したのが2番目の画像で、比較的波長が長い3つの波長の赤外線で撮影したデータを合成したものである。IRCの画像で弧状に写っていた部分が青く見える。ここから出ている遠赤外線は波長が短め、すなわち温度が高いことを意味する。大質量星で暖められていることを示すものだ。一方、その周辺は赤く写っている。IRCの画像ではとくに輝いていなかったが生まれたての星が分布していた領域だ。エネルギー源となる天体は存在しないものの、星の材料は大量に存在しているようである。

先に生まれた大質量星(白い十字印)の活動で星間物質が掃き集められ、次世代の星(赤い丸印)が誕生しているのだ。だが「あかり」は、この「親」星のさらに前の世代の活動もとらえていた。

3番目の画像は、IRCが100光年ほどの広い領域を撮影したものである。画面左側にはIC4954/4955がひときわ明るく見えている一方、中央に100光年程度の空洞が広がっている。どうやら空洞の中央で第一世代の恒星が誕生し、その影響でIC4954/4955の大質量星が誕生したようだ。恒星の誕生が連鎖し、世代を重ねているようすが明かされたことになる。

初めて赤外線でとらえた小マゼラン雲の超新星残骸

「あかり」のIRCがとらえた小マゼラン雲の一部

「あかり」のIRCがとらえた小マゼラン雲中の超新星残骸B0104-72.3の画像(白の横棒は30光年の大きさを示す)。波長4(青)・7(緑)・11(赤)マイクロメートルで撮影した3枚の画像を合成した。クリックで拡大(提供:Koo Bon-Chul氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA))

星の最期の姿である超新星残骸(解説参照)も「あかり」によってとらえられ、周囲にある星間物質との相互作用が明らかにされた。この研究は、ソウル大学のKoo Bon-Chul教授のグループが中心となって行った。

超新星残骸は、超新星で核合成された元素を星間空間にまきちららし、爆発のエネルギーで星間物質を大きく乱すことから、銀河の進化に大きな役割を果たすと考えられている。しかし、星間物質をよく調べることができる赤外線観測が少なく、十分な理解が得られていなかった。

観測されたのは、われわれからおよそ20万光年の距離にある隣の銀河・小マゼラン雲に存在する超新星残骸B0104-72.3で、IRCが初めて赤外線での観測を行った。約60×100光年ほどの両端が輝く楕円形の構造としてとらえられている。4つの波長で超新星残骸を観測していて、その明るさの関係から、周囲の分子雲と相互作用して衝撃波を起こしていると結論づけられた。元となった超新星が質量の大きな星であったことが示唆されている。

B0104-72.3は約1万年前に爆発した超新星の名残と考えられており、電波とX線観測では知られた超新星残骸だが、どちらの波長でも特に明るいということはない。「あかり」の観測は、超新星残骸と星間物質の相互作用の性質を診断し、星間物質の進化過程の研究に大きく貢献することが期待されている。「あかり」は今後も多くの超新星残骸の赤外線観測を進めていく予定となっている。

超新星残骸

超新星の爆発で吹き飛んだガスがつくる残骸。球殻状に広がりながら周囲の星間ガスと衝突し、その衝撃波でガスが加熱されるなどしてX線や電波を発している。かに星雲をはじめとして、はくちょう座の網状星雲、ケプラーの超新星残骸、ティコの超新星残骸などが有名である。後者の3つが、内部はもはや空洞になっているのに対して、かに星雲は、中心のパルサーの影響を現在も受けている。(「最新デジタル宇宙大百科より」より抜粋)