銀河の“黄金レシピ”、暗黒物質は太陽3000億個分

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【2011年2月17日 ESA

赤外線天文衛星「ハーシェル」の観測データの分析から、爆発的な星形成を起こす銀河を作るのにちょうどよい暗黒物質の量は太陽質量の3000億倍であることがわかった。この数値により、銀河形成の理論モデルの精度がさらに高まることが期待される。


(「ロックマンホール」の銀河の画像)

研究対象となったハーシェルの観測画像。「ロックマンホール」と呼ばれるおおぐま座の一角で、星間ガスが少なく天の川銀河の外をクリアに見通せる領域をとらえている。点の一つ一つが100〜120億光年先の銀河で、明るく白い箇所が星形成が活発な部分。クリックで拡大(提供:ESA & SPIRE consortium & HerMES consortium)

(暗黒物質の分布のシミュレーション画像)

宇宙誕生から約30億年後の暗黒物質の分布のシミュレーション画像。初期宇宙の物質密度のむらからできた網の目構造が見られる。左は暗黒物質の粒子の分布図、中央は見え方を単純化したもの、右は銀河が形成されやすい場所を黄色でハイライトしている。クリックで拡大(提供:The Virgo Consortium/Alexandre Amblard/ESA)

ESAの赤外線天文衛星「ハーシェル」の観測データから、これまで考えられていたより少ない量の暗黒物質でガスやダスト(ちり)を集め星を形成している遠方銀河の存在が判明した。

これまでは、多数の星が形成されるのは太陽の5兆倍以上の質量を持つ銀河とされていたが、発見された遠方銀河は3000億倍の質量しかなかった。この質量のほとんどは暗黒物質が占めていると見られる。暗黒物質とは、天体などの物質を一箇所に集約する重力を生み出す正体不明の物質のことで、回転する銀河がバラバラにならないのもこの暗黒物質が生み出す重力の作用とされている。

現在考えられている銀河誕生の過程では、まずこの暗黒物質が大量に集まり、その重力で通常の物質が引き寄せられる。物質が一定の量に達すると、現在の天の川の100〜1000倍という激しい勢いで爆発的な星形成が始まる。

米カリフォルニア大学の研究チームは、ハーシェルに搭載された分光・測光撮像器「SPIRE」で観測された250μm、350μm、500μmの波長の赤外線画像を分析した。それらの画像には、爆発的な星形成が起こっている若い銀河が無数にひしめき、「宇宙赤外線背景放射」と呼ばれるもやのようなものがとらえられている。その分布は、暗黒物質の分布に沿って濃淡の部分ができている。この模様を分析すると、従来の可視光観測から推定されていたスピードの3〜5倍もの勢いで星が生成されていることがわかった。

また、今回判明した「太陽の3000億倍」という数字が、最も星生成が起きやすい質量だということもコンピューターシミュレーションなどによりわかった。軽すぎると星を生み続けるにはパワー不足だし、重すぎるとガスが冷えず物質が重力で集まりにくいため星形成には至らないというのだ。

「爆発的な星生成を起こすのにちょうどよい質量が観測から直接求められたのは、これが初めてのことです」(研究チームのAsantha Cooray氏)

この結果は、今後の銀河形成の理論モデルに組み込まれ、銀河形成過程のさらなる理解に役立てられることが期待される。