超新星1979Cの残骸は、たった30歳のブラックホール

【2010年11月22日 NASAChandra Photo Album

NASAのチャンドラX線観測衛星が、これまで観測された中でもっとも若いブラックホールが近傍宇宙に存在する証拠をとらえた。このブラックホールは地球から5000万光年の距離にある銀河M100に1979年に発見された超新星1979Cの残骸と考えられている。


(M100に発見された超新星1979Cの画像)

M100に発見された超新星1979C。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/SAO/D.Patnaude et al, Optical: ESO/VLT, Infrared: NASA/JPL/Caltech)

これまでに多くのブラックホールが遠方宇宙で観測されており、それらはひじょうに高いエネルギーを放出する現象であるガンマ線バーストとして発見されている。しかし理論による予測では、宇宙に存在するほとんどのブラックホールは大質量星の崩壊によって形成され、その際ガンマ線バーストは発生しないと考えられている。

NASAのチャンドラX線観測衛星が、そのような、むしろこの宇宙ではよりありふれたプロセスで誕生したと考えられるブラックホールの存在証拠をとらえた。

ブラックホールが見つかったのは、地球から5000万光年の距離にある、かみのけ座の銀河M100だ。ブラックホールは1979年に発見された超新星1979Cの残骸と考えられており、誕生からたった30年ほどしかたっていない。注目すべきは、これまでに観測されたブラックホールにくらべてはるかに近い距離に位置している点、さらにこの超新星がガンマ線バーストを伴わない種類に属している点にある。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAbraham Loeb氏は「宇宙でもっとも一般的といえるプロセスによるブラックホール誕生の現場を、初めて観測した例となるかもしれません」と話している。

また、同センターのDaniel Patnaude氏は「わたしたちの解釈が正しければ、そのようなブラックホール誕生現場をとらえた、もっとも近い例となります」と話している。

このブラックホールの存在は、2005年に発表された理論的な研究結果とも一致している。この理論によると、超新星1979Cが可視光の波長で明るく輝いているのは、ブラックホールのジェットからエネルギーを得ているためだという。さらに、そのジェットが爆発前に放出された水素の外層を突き抜けることができないためにガンマ線が生成されないということだ。これらは、超新星1979Cの観測結果とひじょうによく一致している。

ところで、この天体がブラックホールであるという証拠は、チャンドラやNASAのガンマ線観測衛星スウィフト、ESAのX線観測衛星XMM-Newton、米独英によるX線観測衛星レントゲン(ROSAT)による観測から得られている。これらの衛星は1995年から2007年までの間安定的に放射されていたX線をとらえており、この天体がブラックホールで超新星かその伴星から物質が落ち込んでエネルギーを得ていることを示している。

一方で、爆発後に残った天体がブラックホールではなく、若くてひじょうに高速で自転する中性子星であるために、高エネルギー粒子によってX線が放射されている可能性も残されている。その場合、この天体はこれまでに知られる中で、もっとも若くもっともX線で明るいパルサー風星雲(※)か、もっとも若い中性子星ということになる。参考までに記しておくと、パルサー風星雲の代表例である「かに星雲」のパルサーの年齢は約950歳である。

※パルサー風星雲

パルサーから吹き出す高エネルギー粒子の風が、パルサー磁気圏や星間ガスと相互作用し、シンクロトロン放射(高エネルギーの電子が強い磁場に巻きつき、エネルギーの一部の進行方向が変えられる際に放出される電磁波)によって電波や可視光、X線を放射するパルサー周辺の星雲をいう。

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