すばる望遠鏡、暗黒物質のゆがんだ分布を明らかに

【2010年4月27日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡がとらえた複数の銀河団の画像から、正体不明の「暗黒物質」の分布が精密に測定された。その結果、暗黒物質が密集した領域では、分布は球状ではなく、ゆがんだ扁平な楕円状であることが明らかになった。この「ゆがみ」から暗黒物質の正体に迫ることが可能になるかもしれない。


(解析に使われた銀河団Abell 2390の画像)

解析に使われた銀河団Abell 2390。紫色は重力レンズ効果の解析から得られた銀河団内の暗黒物質分布で、右上−左下方向にそって伸びた形状をしている。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(重力レンズ効果による暗黒物質分布の形状測定の模式図)

重力レンズ効果による暗黒物質分布の形状測定の模式図。赤は暗黒物質の密度が高く、青は低い。黒線は密度分布に対応した背景銀河のゆがみで、(左)丸い球状の暗黒物質分布の場合、(右)ゆがんだ扁平な暗黒物質分布の場合。クリックで拡大(提供:国立天文台)

銀河団とは1,000個ほどの銀河の集まりで、そこには太陽の1,000兆倍にもおよぶ大量の暗黒物質が付随していることが知られている。暗黒物質の正体は依然として不明であり、現代天文学および物理学におけるもっとも重要な未解決問題のひとつとされている。暗黒物質は光を発しないため、詳細な空間分布を調べることはひじょうに難しい。

国立天文台の大栗真宗研究員、東京大学の高田昌広特任准教授を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡の主焦点カメラが撮影した18個の銀河団の画像を詳細に分析し、画像中に見られる重力レンズ効果から銀河団内の暗黒物質の空間分布を明らかにした。

重力レンズ効果とは、天体の重力により光の経路が曲げられる現象で、アインシュタインの一般相対性理論によって予測されている。例えば暗黒物質が集中した場所があると、その重力場がちょうど凸レンズのように働いて、背後にある遠方の銀河が発する光の経路が曲げられ、結果として銀河の姿が変形して観測される。

背景の銀河の形が重力レンズ効果によってどのように変化しているかを測定すると、銀河の手前にある暗黒物質の分布を直接的に推定することができる。この効果は重力レンズを引き起こす天体が普通の天体か暗黒物質かにはまったくよらないため、目に見えない暗黒物質を探る上でひじょうに強力な手法となる。

研究チームが明らかにした分布は、球状ではなく大幅に「ゆがんだ」扁平な楕円状であった。平均的なゆがみの度合いは、楕円の長軸と短軸の比でおよそ2対1と大きなもので、「ほぼ球形」をしている太陽などの恒星とは対照的である。重力レンズ効果を用いた暗黒物質分布のゆがみが、これほど高い信頼度で検出されたのは、今回が初めてのことだ。

標準的な暗黒物質理論の予測と今回の測定結果を詳細に比較したところ、暗黒物質分布のゆがみの度合いを含めて良く一致することがわかった。今回の研究結果は、暗黒物質の性質に対する標準的な考え方を強く支持する新しい証拠であり、暗黒物質分布の「ゆがみ」から、その正体にせまる可能性を初めて示した点で重要な成果となった。