太陽観測衛星「ひので」が巨大フレアをとらえた

【2007年3月22日 国立天文台 アストロ・トピックス(285)

日本の太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)が観測した巨大フレアの動画が公開された。3つの観測装置が、異なる波長でフレアの異なる側面をとらえている。地上通信や宇宙飛行士にも影響を与えるフレアを研究することは、「ひので」にとって最大の課題の1つだ。


(XRTがとらえたフレア直前のループ構造)

フレア直前に現れたループ構造。XRTがとらえた。クリックで拡大(提供:国立天文台(以下同))

(SOTがとらえた黒点衝突のようすと磁場の変動)

SOTがとらえた、2つの黒点の衝突(左)とそれに伴う磁場のねじれ(右)。フレア直前の画像。クリックで拡大

(SOTがとらえたフレアリボン)

SOTがとらえた、黒点を飲み込まんばかりに広がったフレアリボン。クリックで拡大

太陽観測衛星「ひので」は2006年9月23日に打ち上げられ、現在初期観測が続いている。フレアが撮影されたのは2006年12月13日午前2時(世界時)のことで、ちょうど試験観測していた太陽の活動領域で発生した。このフレアは太陽活動がもっとも低い時期(太陽活動極小期)に発生したものとしては最大級だという。

「ひので」の最大の特徴は、3つの観測装置「可視光・磁場望遠鏡(SOT)」「X線望遠鏡(XRT)」「極端紫外線撮像分光装置(EIS)」を搭載し太陽をさまざまな波長で見ることができる点だ。

太陽フレアは磁場に蓄えられたエネルギーが解放されることで発生するとされている。XRTはフレア直前に現れていた強くねじられたようなループ構造をとらえた。このループは磁気の変動に伴いコロナ(太陽の高層大気)に現れるもので、絶対温度2000万度という高温である。公開された動画には、ループがフレアとともにゆるやかななものへと変化していくようすが映っている。また、磁気の変動に伴う波打つような構造も見られる。

SOTは黒点とフレアの関係を浮き彫りにしている。フレア直前に2つの黒点が衝突し、磁場をねじ曲げているようすをとらえたのだ。また、ループ構造の足もとに出現する「フレアリボン」も見られる。これは、エネルギー解放とともに発生した熱や高エネルギー粒子が彩層(太陽の低層大気)に流れ込むことで生じる現象だ。動画には、リボンが内部磁場の強い黒点にまで侵入していくようすも映っている。

EISは紫外線スペクトルを解析し、フレアに伴った秒速約700キロメートルもの超高速現象を確認した。その正体は噴出物か衝撃波であると推測される。

太陽活動は11年周期で移り変わるが、現在は比較的活動性が低い時期にあたる。4年後には活発な時期(太陽極大期)が訪れる。巨大フレアが発生すると、大量のプラズマと磁場を地球に向かって放出し、さまざまな現象をもたらす。その中にはオーロラのような美しい現象もあるが、通信・送電システムの障害、宇宙飛行士の健康への悪影響など深刻なものが多い。情報化と宇宙開発が推進されている現代社会にとって太陽フレアの予測は重要な課題だ。「ひので」に求められているものは大きい。