太陽探査機「ひので」試験観測画像の公開

【2006年10月31日 国立天文台 アストロ・トピックス(251)

宇宙航空研究開発機構(JAXA)、自然科学研究機構・国立天文台、アメリカ航空宇宙局(NASA)、英国・素粒子物理学・天文学研究会議(PPARC)は共同でリリースを発表し、太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)で取得された画像を初めて公開しました。


「ひので」は、2006年9月23日午前6時36分(日本標準時)に、鹿児島県の内之浦ロケット発射場(内之浦宇宙空間観測所)から打ち上げられました。打ち上げ後、予定されていた軌道に投入が成功し、姿勢制御機能の性能も確認されるなど衛星としての初期運用を順調に行ってきました。そして、10月23日から28日にかけて、搭載されている3台すべての望遠鏡を順次、性能確認し、設計値どおりの性能が発揮された画像を取得することがでました。

3台の望遠鏡はそれぞれ観測する波長が違い、波長の長いものから順に、可視光・磁場望遠鏡(SOT)、極端紫外線撮像分光装置(EIS)、X線望遠鏡(XRT)と呼ばれています。いずれの望遠鏡も過去の装置に比べ高い空間分解能を持ち、いわば、太陽を調べるための「顕微鏡」とも言える観測装置です。太陽は、観測する波長によって「見え方」が異なります。太陽大気の温度・密度の構造によってどの高さの層からどのような放射が出るかが異なるためです。「ひので」に観測波長の異なる3台の望遠鏡が搭載されたのは、異なる波長で観測することで、光球面からコロナにわたる、異なる高さの大気層を同時に、しかも高い分解能で観測するためなのです。

可視光・磁場望遠鏡(SOT

(ひので可視光望遠鏡のファーストライト)

SOTのファーストライト。430ナノメートルの光で得られた太陽面。粒状斑(対流泡)に加えてそれらに挟まれた小さな輝点群(磁場の要素構造)をつぶさに見ることができる。クリックで拡大(提供:国立天文台)

SOTは、人間が目で見ることができる可視光(約380ナノメートル〜700ナノメートル)を高空間分解能で撮像し、連続して太陽を観測する望遠鏡です。約6000度の太陽表面(光球)から約1000キロメートル上空の彩層(約1万度)と呼ばれる太陽大気までの様子を観測します。

宇宙空間から可視光で太陽を観測する望遠鏡としては、史上最大の50センチメートルの口径をもち、0.2〜0.3秒角という高い空間分解能を達成しています。SOTの高空間分解能によって、これまでは不可能だった太陽表面の様々なスケールの構造を、24時間連続して観測することができます。

さらに、SOTには世界最高峰の偏光分析装置が搭載され、光球での磁場の大きさだけではなく、3次元的な方向まで、0.3秒角の高空間分解能で測定することが可能です。SOTでは、0.3秒角の高空間分解能での3次元磁場構造のスナップショットだけではなく、磁場構造の時間変化をムービーとして作成できます。

極端紫外線撮像分光装置(EIS

(ひので極端紫外線撮像分光装置のファーストライト)

EISのファーストライト。下は幅の狭いスリットでとらえた極端紫外線領域における太陽のスペクトル。右上の2枚の画像は、幅の広いスリット(=スロット)でとらえた、2種類の輝線を中心とした光における太陽の姿。鉄イオンの輝線(一番右)はコロナの、ヘリウムイオンの輝線(右から2番目)は彩層上部の構造をよく示す。クリックで拡大(提供:国立天文台)

EISは、地球大気のため地上に届かない極端紫外線域の光を、撮像・分光観測し、太陽大気の診断を行う観測装置です。

EISの観測する極端紫外線領域(波長約17ナノメートル〜30ナノメートル)ではおもに遷移層やコロナと呼ばれる大気層からの放射を観測することになります。太陽大気中に存在するさまざまな元素(たとえば鉄・シリコン・ヘリウム・マグネシウム等)は、その元素が存在する領域の温度に対して、特定の波長の光を放出します。太陽の大気層である、彩層上部(温度:数万度)・遷移層(温度:数万度〜100万度)・コロナ下部(約100万度)に存在する元素は、極端紫外線で輝線を出すため、EISによる観測で、これらの温度域に対応する大気層の画像を取得することができます。

また、極端紫外線の輝線スペクトルは、その放射領域の温度だけではなく、密度や速度の情報を持っているので、分光観測をすることにより、その温度領域の密度・速度も計測することが可能です。これまでの衛星に搭載された中で最高の極端紫外線撮像分光装置(SOHO搭載のCDS)より、空間分解能で約3倍・波長分解能(分光性能)で3倍以上・感度(有効面積)で約10倍の性能向上を達成しています。私たちがこれまでまったく目にしたことのない新しい太陽像を明らかにすると期待されます。

X線望遠鏡(XRT

(ひのでX線望遠鏡のファーストライト)

XRTのファーストライト。これまで黒点が見られるような大きな活動領域(拡大図右)には磁気によるループ構造が見られることが分かっていた。XRTは、これまで輝く点にしか見えなかった領域(拡大図左下)にも同じようなループ構造があるのをとらえることに成功した。クリックで拡大(提供:国立天文台)

XRTは、太陽大気上層にある、100万度以上の温度を持つコロナから放射されるX線および極端紫外線(波長約0.6ナノメートル〜20ナノメートル)を観測し、コロナを鮮明に撮像します。

XRTは、日本の前太陽観測衛星「ようこう」に搭載され、太陽研究に革命を起こしたといわれる軟X線望遠鏡(SXT)の後継機です。このSXTに比べXRTは、空間分解能が約2倍以上向上し、約1秒角(太陽表面で730キロメートルに対応)という太陽用X線望遠鏡としては史上最高の高空間分解能を達成しています。さらに、SXTは200万度以上のコロナ上層のプラズマしか観測できなかったのに対し、XRTでは、100万度程度のコロナ下層のプラズマまで観測できるようになりました。XRTの観測から、コロナを加熱するメカニズムやコロナと下層大気との関係などを解明する研究が一層進むと期待されます。

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