火星偵察の目が開いた:マーズ・リコネイサンス・オービターからの初画像

【2006年5月11日 NASA Multimedia Features(1)(2)

3月に火星に到着したNASAの探査機、マーズ・リコネイサンス・オービター(MRO)の観測機器が動作を開始し、さっそく画像が送られてきた。その出来栄えに、研究者たちは今年11月からの本格的な観測ミッションが成功することを確信している。MROは、現在火星を周回中で、その軌道を徐々に火星に近づけている。最終的には高度300キロメートルほどから8種類の科学的調査を行う。MROは日本語で「火星偵察周回機」。大気の様子、水や鉱物の分布、そして何より表面の詳細な地形を調べ、新しい科学的知見と将来の有人火星探査に役立つ情報をもたらすことが期待されている。


(マーズ・リコネイサンス・オービターによる火星表面の画像)

(マーズ・リコネイサンス・オービターによる火星の画像)

(上)HiRISEカメラが撮影した細かな地形(提供:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona )、(下)CTXによる火星表面の画像(提供:NASA/JPL/MSSS)。ともにクリックで拡大

MROは2005年8月12日に打ち上げられ、約7ヶ月後の今年3月10日に火星に到着した。最初のうちは、火星から最大43,000キロメートルも離れる楕円軌道をまわるが、ここから火星大気との摩擦を利用し徐々にブレーキをかけ、11月には高度255から320キロメートルの軌道を周回するようになる。この「エアロブレーキ」の段階に先立つ3月24日に、MROに搭載された3つの撮像装置が運用を開始し画像を地球に送信してきた。本格的な観測に向けての、画像処理方法等の調整が主な目的だ。最終的な高度の10倍も離れた位置からの撮影とはいえ、火星について多くのことを物語ってくれる画像だ。

右の2つの画像のうち、上が高解像度撮像装置(HiRISE)、下が広範囲カメラ(CTX)により撮影された物だ。

HiRISEでわかる表面の詳細

この探査機の名前にリコネイサンス(Reconnaissance=偵察)とつくのは、HiRISEが搭載されてるからこそといえるだろう。望遠鏡の口径は50センチメートルと従来の惑星探査機に比べ大きく、高度300キロメートルから火星の表面を撮影すると机程度の大きさの岩でも見分けられる。これまでの火星探査機は、小型バス程度の物体を見分けるのがやっとだった。この強力な「目」を通し、緑、赤、近赤外線に相当する3つの波長で撮影し、疑似カラー合成したのが右上の画像だ。地表からの距離は2,493キロメートル、1ピクセルが2.49メートルに相当し、全体で縦49.92×横23.66キロメートルだ。

火星面上のこの地域の時刻を地球風に言えば午前7時半ごろ。画像の下半分がやや明るく青味がかっているのは、「朝もや」が原因のようだ。一方上半分をよく見てみると、筋状の模様がいくつも見える。こちらは、風が作り出したという。下半分に見える川のような地形は、水の氷もしくはドライアイスの氷河が表面の岩を削り取って形成されたようだ。こうした、火星の現在及び過去の気候を調べることも、MROの重要な目的なのである。

中央付近には緑色をした地形がある。ここの組成は他と違うようだ。どんな鉱物が存在するかなどを調べる装置、小型観測撮像スペクトロメータ(CRISM)を向ける候補となるかもしれない。

CTXで広域もバッチリ

MROは、木を見て森も見る。HiRISEなどが調べる一地点における様々な特徴が、どのようにして形成されたかを、その周辺を見渡すことで明らかにするのがCTXだ。ミッションの本番では、30キロメートルほどの地域を、1ピクセルあたり6メートルの分解能で撮影する。

右下の画像は、1ピクセルあたり87メートル。火星からかなり離れたところで撮影してるので、広範囲にわたって見渡していることになる。写っているのは、太陽系最大の谷と言われるマリネリス峡谷の東端付近。地形が実に複雑に入り交じっているのがわかる。なお、参照元で公開されているオリジナルの画像(9MB)を見れば、もっと微細な構造が見えてくる。広い視野を確保しつつも、十分な分解能を確保しているのがCTXだ。

オリジナルの画像全体にはよく見ると明暗の縞模様がある。これは撮像装置そのものの特性で、幾度も画像を撮影することで、ようやく影響を除去できる。また、今後火星の表面に10倍以上近づくことを考えれば、実力を発揮するのはこれからだ。それに、MROに搭載された様々な機器は個々に働くよりも、それぞれの得意分野で連携することで大きな成果を出すことができる。そんな風に考えると、11月から始まる観測ミッションの本番が、実に待ち遠しく思える。