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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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078(2010年12月)

超新星 2010kp

2010年12月10日23時01分、山形の板垣公一氏から「超新星らしき天体(PSN)を発見しました」と電話があります。このとき私は、居住中のマンション(当時)の壁面塗装工事から退避するために別のマンション(今はこちらに住んでいる)にいました。ここではインターネットを利用できないために、氏からの連絡を受け、23時40分にオフィスに出向きました。氏のメイルは22時59分に届いていました。そこには「2010年12月8日夕刻、20時50分に60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、北天きりん座にある系外銀河NGC 1485を撮影した捜索画像の中に写っている小銀河(2MASX J04034059+7045116)に、17.9等の超新星状天体(PSN)を発見しました。この超新星の出現は、その後に撮られた10枚以上の画像上に確認しました。その間の60分間に移動はありません。超新星の姿は、過去の捜索画像上、およびDSS(Digital Sky Survey)にも写っていません。超新星は、銀河核から西に8"、北に4"離れた位置に出現しています」という報告がありました。氏の発見は、12月9日00時13分にダン(グリーン)に送付しました。

この発見報告を見た上尾の門田健一氏からは、00時33分に「今夜は曇っています。明日は帰省でバタバタしそうですので、そろそろ作業を終えます」という連絡が届きます。板垣氏からは「ダンへの発見報告が届いた」との確認のメイルが00時49分にあります。そしてその夜が明けた07時28分には、大崎の遊佐徹氏より「おはようございます。今日も一日中外回りで、日中の早い時間にコンピュータに向かうことはできません。しかし、幸いにも赤緯が高いきりん座ですので、夕方戻り次第メイヒルのリモートでチャレンジします。さらに明るくなることを楽しみにしています」という連絡があります。

発見翌日(12月11日)、オフィスに出向くと板垣氏から「少しの晴れ間でPSNを観測できました。17時57分に18.0等でした」というメイルが18時37分に届いていました。また、遊佐氏からは19時02分に「メイヒルの25cm望遠鏡で、17時28分にこのPSNの出現を確認しました。光度は17.3等でした」という確認結果が報告されます。しかし、そのあとちょっとしたサーバのトラブルがあったため、これらの観測は12月10日04時48分にダンに送付しました。ダンは、05時59分到着のCBET 2577でこの超新星の出現を公表しました。それを見た板垣氏からは、07時42分に「おはようございます。おかげさまでSUPERNOVA 2010kpになりました。今回も本当にありがとうございました」というメイルが届きます。なお、この発見は08時30分発行の新天体発見情報No.171で、報道各社に連絡しました。

小惑星(596)シェイラのバースト

12月12日00時23分に大崎の遊佐徹氏から、九州の西山浩一・椛島冨士夫氏が発見したアンドロメダ銀河(M31)に出現した新星状天体の発見1日前の観測の報告があります。そこには「先ほどは携帯にて失礼しました。カーボンコピー(CC)のとおり、PNの確認を中央局に報告しました。なにか不備ありましたらお知らせください。ところで、板垣さんや椛島さんらから、何度もM31やさんかく座のM33に出現した新星の発見報告がありますので、最近、観測の始めに望遠鏡の調整を兼ねて真っ先にM31に向けることにしていました。発見前の「ない」という観測にでもなれれば、少しは何かの役にも立とうかと考えてのものでした。まさか1日前の出現をとらえていたとは思ってもいませんでした。それとともに、自分の未熟さを痛感した思いです」と書かれてありました。そこで遊佐氏には03時36分に『ご苦労様でした。銀河系内の新星出現は、星間物質によって地球からは発見が妨げられる。しかも近距離のものしか発見できないのと違って、M31やM33はその全体の発見ができます。従って、その数は多いはずです。時間がとれれば、撮影時にチェックされた方がいいでしょう』という返信を送っておきました。

それより2時間ほど前の12月11日22時16分には、東京の佐藤英貴氏より、小惑星センターの未確認天体の確認サイト(NEOCP)にある12等級の明るい天体(RX39E61)の21時半前後の確認観測が届いていました。氏によると「この天体には、西に大きく拡散した90"の尾と西南にスパイク状の45"の尾が見られます。この天体は彗星です」と報告されていました。12月12日04時24分には、美星の奥村・坂本両氏からもこの天体の追跡観測が届きます。さらにその日の朝08時33分には、山口の吉本勝己氏から「先ほど眼視観測のメイルをCCで送らせて頂きました。実は、今朝はもう1つ観測があります。NEOCPに掲載されているRX39E61をCCDで観測いたしました。この天体は間違いなく彗星です。コマの視直径は80"で西南西に60"ほどの尾があり、コマの北側からは北東から回り込んで伸びています。光度は13.7等。観測機材は16cm f/6.3反射+CCD(ノーフィルター)です」という報告があります。これらをダンに報告すると09時49分に「この天体は番号登録小惑星(596)シェイラだ。Yoshimotoの観測の時刻と等級を教えてくれ」という連絡があります。そこで15時29分になって『今外出しているが、彼の観測は12月12日03時55分、13.7等だ』と伝えておきました。

その日(12月12日)の夜は、19時50分に南淡路まで買い物に出かけ、帰りに吉野家に寄って、22時10分にオフィスに出向いてきました。22時35分に吉本氏から「今朝は、RX39E61の観測をすぐに送っていただき、ありがとうございました。メインベルト小惑星のバーストとは驚きです。たまたまCCDで撮影をしていたのでNEOCPを読んで望遠鏡を向けることができました。時間があったのでノーフィルター以外にもVバンドとIcバンドでも撮影しており、ようやく光度を測りましたので、ご報告いたします。ノーフィルターでは13.7等でしたが、Vでは13.5等、Icでは12.6等です」という報告が届きます。また、23時36分には遊佐氏から「昨夜はM31の新星の件で、ありがとうございました。先ほどセンターに報告したとおり、今日17時前に、米国メイヒルにある望遠鏡をリモート操作して、彗星状を呈するメインベルトの小惑星(596)を撮影しました。光度は13.5等。ノーフィルターでの全光度です」という報告もあります。ところがこの時期、センターではメイル障害のため、多くのメイルが見失われていました。また、私もときどき外出していたので、こちらでもすべてのメイルをチェックできませんでした。そのため吉本氏の観測については、12月13日05時03分になって『Yoshimotoの観測を見ていなかった。申し訳ない。彼の観測を送る。なお、美星の昨夜の観測には彗星状という情報はつけられていなかった。彼らの画像を添付して送る』という報告を送っておきました。

ヒル周期彗星(2009 Q1)

この日の夕方16時57分には、ドイツのメイヤーから「マトソンがヒル周期彗星(2009 Q1)の過去の観測を1996年と1998年のNEATサーベイの画像中に見つけたという連絡があった。1996年の観測は15等級と彗星は大変明るかった。ただし、1夜の3個の観測だ。1998年には1月26日と2月26日に観測がある。ただし1個ずつだ。重力のみによるリンクでは、2009年の最後の観測に系統だったずれが見られる。非重力効果を含めた改良では、このずれは消えるが、近日点距離が大きいために係数があまりにも大きくなる」という連絡が届きます。さっそく私の方でも、これらの観測をリンクしました。HICQ 2010/2011にある軌道からは、1998年の観測は近日点通過日の補正値にして+1.3日、1998年の観測には+1.0日ずれていました。1996年の観測のずれは、赤経方向におよそ−0゚.47でした。しかし彼の言うとおり、2009年の最後の観測の残差の分布は良くありません。とにかく、私の方で計算した連結軌道を12月13日06時35分と07時33分にメイヤーに送っておきました。そこには『軌道は、まだ重力のみで計算するべきだろう。小惑星の同定を探したが見つからなかった』とつけ加えておきました。彗星には1回帰前の出現が確認されたため、これでこの彗星には周期彗星の登録番号を与えることができます。

ところが……です。12月15日03時56分になってメイヤーから「1998年の画像をチェックしたところ、これらの観測は何かのスペックのようだ。従ってこれらの観測は削除されるべきだ。そのため、この彗星の過去の観測は1996年の1夜の観測のみになってしまった」というメイルが届きます。『えっ、そんな……』と思い、04時53分に『なぜだ。1998年のイメージは彗星状ではなかったのか。連結軌道はこれらの観測を1"以内に表現しており、2夜の同定に問題ないと思うが……』というメイルを送りました。すると05時01分に「イメージはノイズレベルと同程度であった。彗星はこの時期21等より暗く、NEATサーベイでは撮影できないはずだ。予報位置にあるノイズが測定されたものと考えざるを得ない」という返答が戻ってきました。そのためこの彗星は、このとき番号登録されず、次回の検出を待つことになりました。

かに星雲近くの彗星状天体

この頃、国立天文台の渡部潤一氏から送られた「彗星状天体」の報告にもダンは気づいていませんでした。渡部氏からは12月13日19時41分に「ちょっと電話番号がわからなくなりました。お電話をいただけると幸いです」というメイルが届きます。しかしこの日は、また外出のため、氏のメイルは見られません。そのため、氏からダンへ21時51分に「2010年12月12日夕方、シューメーカー・レヴィ彗星(1993 F2)のような奇妙な形状をした天体が発見された。その形状は、北−南方向に30"ほどに伸び、南に1時間に1'ほどの速度で移動している。発見者は12枚ほどの画像を取っている。その中の5枚の画像が送られてきた。私たちはすべての画像を調べた。天体は、その形状を保って実際に移動していることを確認した。天体にはコマは見られないが、拡散状であるようだ。発見位置は、かに星雲の近くで、光度はおよそ15等級。我が国内の天候が悪いため、石垣天文台に確認を依頼した」というメイルと発見記録が送られていました。

12月14日早朝、オフィスに戻ってきたとき、渡部氏のメイルを目にし、上尾、大崎、山形に画像を送り、その確認を依頼しておきました。03時50分のことです。そして渡部氏のメイルにまだ気づいていないダンに、03時58分に『この報告を受け取ったか』というメイルとともに渡部氏の報告を送っておきました。ダンからは04時16分に「いや、お前からのメイルを見るまで、この報告に気づかなかった」という返信が届きます。渡部氏には04時48分に『何度もお電話いただいたようで、大変申しわけありませんでした。この天体ですが、かに星雲状の形ですね。で……かに星雲の近くとは……。私は、最近ではこのような天体が報告されたとき、人工衛星の燃料噴射、あるいは漏れを疑ってみます。形状が異なりますが、「星ナビ」2009年6月号にその一例(櫻井天体)があります。ただ、日々運動が24'ですから、通常の衛星にすると動きが遅いですので、太陽系内天体かもしれません。美星の橋本くんに、観測位置付近に人工衛星がいなかったか、燃料噴射がなかったかを調べてもらいます。連絡がつかず、ご迷惑をおかけしました。一度お会いしたいですね。なお、例のお詫びの手紙をつけます。あの文書は、私の知る限りでは20か所以上に出ているようです。計2〜3回ほど異なった手紙が出ています。投函場所もそれぞれ異なったものがありますので、複数の人間がグループでやっているのかもしれません。前回の独立発見(レヴィ彗星;村上氏は、彼のウェブサイトで独立発見を主張している)の件もあって、そのときもかなりの中傷文書が出回りました。そして、またまた2番目の発見のため、いらぬ疑念を呼んだのだと思います。なお、CBET 2587にあるメイル障害のため、報告が届いてなかったようです。私の方で送っておきました』というメイルを送っておきました。また、念のため吉本氏の観測も、再度05時23分に送っておきました。

12月14日夕刻、17時58分には遊佐徹氏からの情報が届きます。そこには「今日、15時10分と15時26分にアメリカのメイヒル近郊のGRAS天文台の25cm f/3.4反射望遠鏡のリモート観測で、かに星雲付近の天体について確認を試みましたが、見つかりませんでした。発見時から43時間経過していますので、1時間に80"=1'.3ほど移動するとして発見場所から約55'南の場所を中心に探した次第です。確認範囲は、いずれの時刻も赤経05h34m45s、赤緯+21゚00'00"を中心とする60'.4×40'.7の範囲です。各フレームは120秒露光、限界等級は19.5等です。当初は視野の中心に大きく広がるぼやっとしたものが問題の天体だと思い、私もずいぶんかに星雲に似た彗星らしくない妙な天体だと思っていましたが、これはM1(かに星雲)本体でした」とありました。『ありゃ、そうなんですか。潤一さん。すみません……』。氏からのメイルは続けて「90゚右に回転させると上が北になり、周囲の星とマッチングできました。問題の天体は、添付された回転前の画像ですと右下の棒状の天体です。南北に棒状に広がっていて、そのまま南に移動しています。もっと南北に広い範囲を探すべきかもしれないと思い、その後、日本時16時25分に、やや北に戻した05h34m45s、+21゚10'00"を中心とした同視野角の120秒露光で1フレームを撮影しました。しかし、棒状の特徴的な天体の姿は見いだせませんでした。時間的な都合上、さらに南に延ばした範囲は捜索できませんでした。大崎は、この後天候が悪化し雪が降る予報です」という報告があります。この遊佐氏の確認観測は重要ですので、12月15日04時40分に渡部氏に連絡しておきました。

また、上尾の門田健一氏からは12月15日00時39分に「4枚の画像をコンポジットしてみました。200%拡大です。左側の画像は、細長く延びた像の先端付近で位置を合わせたもの。右側の画像は、恒星の重心で位置を合わせたものです。動きに合わせて重ねた左側では、報告のように3か所ほど集光しているようですが、よくわかりませんね。枚数を増やして重ねてみると、もう少し細部が見えてくるかもしれません。恒星で位置合わせした右側の像は途切れていませんので、露出中に移動して伸びたのではなく、天体像が伸びていることが確認できます。なお、今夜は重苦しく曇っています」とその解析結果が知らされてきます。氏の行った画像解析を見る限りでは、天体は実在することが間違いありません。しかし、これ以上どうしようもありません。そのため、美星の橋本氏に発見位置の近くに人工天体が来ていなかったかを問い合わせておきました。

その回答が2011年1月15日になって届きます。そこには「調査したところ、地球周辺の静止軌道付近までの衛星で該当するものはありません。ただし、深宇宙の衛星データがありませんのでわかりません」という報告が届いていました。

M33に出現した新星 M33N 2010-12a

12月15日05時55分、神戸の豆田勝彦氏よりふたご座流星群の観測報告があります。氏の観測では「ZHRは110個ほどの安定した出現でした。やや過修正と思われます」というメイルとこの夜の観測記録が書かれてありました。氏には06時05分に『連絡ありがとう。けっこう出たんですね。私も、ちょっと空を見上げる内に何個か飛んでいるのを見ました』というお礼を送るとともに、06時13分に氏の観測をダンとジェニスケンスに転送しておきました。豆田氏のふたご座流星群の観測は、12月18日06時36分到着のCBET 2593に公表されました。すると豆田氏から12月19日16時29分に「CBET有難うございます。私の名前がこうした世界的な情報に載っているのを見ると、うれしくまた少し恥ずかしいような。励みになります。さて昨晩は、住江氏の室戸レポートに触発されて無謀な室戸遠征して、こぐま座流星群を観測しました。神戸を21時過ぎに出て目的地に午前02時半ごろ到着。03時から薄明まで見ました。満月近い月明かりの中、5等星が見え、月が西に傾くにつれ星が輝いてきました。月没後は素晴らしい星月夜ですが、金星がものすごく明るく夜空の光害になりました。金星には気の毒ですが星を楽しむ私には、もう少し輝きを抑えてほしいところです。こぐま群は、それらしきものを2つ見ましたが、明確な出現とはいえませんでした。05時30分から薄明まで7cm双眼鏡で東の空の彗星探しをしました。次回は、来年(2011年)1月4日未明のしぶんぎ群をここで観測したいと思います」という返信が届いていました。

さて、12月12日00時23分の大崎の遊佐徹氏のメイルから、氏がM31とM33の新星捜索をしているらしいことを知りました。それから約5日後のことです。遊佐氏から九州の西山・椛島氏がM31に発見した別の新星状天体の確認観測が12月17日20時50分に届きます。その3時間後、遊佐氏から「M33に16.6等の新星らしき天体を発見しました」というメイルが届きます。[以下、この項は、次号に続きます

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