Ironwood Remote Observatory Hawaii
第12回 「NASAの小惑星探査機ミッションのお手伝い」

Writer: Ken Archer氏

《Ken Archerプロフィール》

米国・ハワイ州オアフ島在住。アロハ航空の機長を務めるかたわら、自宅に天文台を建設して以来、その性能向上に力を注いできた。リタイヤ後の今は、天文台の自動制御に関連したビジネスを展開している。ホームページ「Ironwood Observatory」を開設中。


ベスタの探査を行う探査機ドーンの想像図

(画像1)ベスタの探査を行う探査機ドーンの想像図(提供:NASA/JPL)

ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえたベスタの画像

(画像2)ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえたベスタ(提供:NASA, ESA, and L. McFadden (University of Maryland)

ケック天文台がとらえたセレスの画像

(画像3)ケック天文台がとらえたセレス(提供:NASA/JPL)

ベスタの光度曲線

(画像4)ベスタの光度曲線(提供:Ironwood Observatory)

小惑星(111)Ateの光度曲線

(画像5)小惑星(111)Ateの光度曲線(提供:Ironwood Observatory)

2010年は、Ironwood Observatoryにとって新たな挑戦で始まり、私たちは今ある1つのゴールを目指し作業を進めています。それは、(前回お話しましたが)友人であり仕事仲間もであるVishnu Reddy博士とともに開始した新プロジェクトです。

そのプロジェクトとは、NASAの小惑星探査機「ドーン(DAWN)」のミッションのためのものです。小惑星探査機「ドーン」は、2011年6月に小惑星ベスタ、2015年に準惑星ケレスに到達して探査を行います。

探査機のカメラは、独・マックスプランク研究所のAndreas Nathues博士が率いるチーム主導で製作されました。実はIronwood Observatoryは、このカメラに関して、これまで誰も試みることのなかった、あることに取り掛かっています。

探査機「ドーン」のカメラは、べスタの組成と表面の地形を調べるために、8つのフィルターを使った撮影を行います。しかし、撮影は位相角の影響を受けて、十分な結果を得られない可能性があります。位相角とは、太陽とベスタと探査機の角度です。実は、その影響に関する研究のお手伝いを任されました。「ドーン」に搭載されているのと同じフィルターのスペアを使って、地球からベスタを観測するのです。探査機に実際に搭載されている機器を使って、地上に設置されている望遠鏡が、探査機と同じターゲットを観測するのは、これが初めてのことです。

フィルターはとても小さくて、たった20mm角しかありません。SBIG社のフィルターホイール「CFW-10」には合わないので、特殊なホルダーで固定しました。このプロジェクトを進めるため、ここ数日は試行錯誤の連続です。最終的には、ビクセン社のR200SS(20cm F4 ニュートン反射式)と、SBIG社の冷却CCDカメラ ST-10E、そして8つのフィルターを使った光度測定を2ヶ月間行う予定です。このことについては、近いうちにまた改めてお話します。

わたしたちは、去年の11月からプロジェクトの準備を始めました。それは、ベスタの観測です。小惑星の表面の明るさは、自転に伴う(観測者から見た)形の変化や、表面を構成する物質や色によって変化します。ほとんどの小惑星の明るさは、見た目の形の変化によるところが大きいのですが、ベスタは半球が明るく、もう片方の半球が暗い、表面の領域によって明るさが変化します。ベスタの光度曲線(画像4)のピークは1つしかなく、「Olbers」と呼ばれる暗い領域を中心とした緯度0度にあたります。

ベスタ以外では、小惑星(111)Ateの測光を完了しました(画像5)。太陽系内の小惑星をはじめとする天体は、自転軸を中心に回転していて、その表面から反射される太陽光を観測すると、自転の速度を知ることができます。たいへんだったのは、自転が24時間という地球の周期に似ていたために、毎晩同じ領域の光度を観測することになったことです。

データの取得には約4週間かかりました。その後、米・ジャクソン州立大学の友人の助けを借りて、22.1時間という小惑星(111)Ateの自転周期を明らかにすることができました。この経験は、決して大きな口径の望遠鏡でなくても、重要な科学的成果が得られることを示していると思います。なお、今月は(111)Ateに続いて、(983)Gunilaと(560)Delilaを観測中です。

また、望遠鏡の自動化は、昼間働く者の助けとなってくれます。ACPのスケジューラーのおかげで、過去2ヶ月でデータも10倍に増えました。スケジューラーによって、夜寝ている間も天気に合わせた観測ができ、1万枚もの画像を取得することができたのです。また、このように準備を充実させ、観測能力が向上するにつれて、わたしたちは、「より大きく、より良い望遠鏡」というものに対する新しい考え方を持てるようになりました。

今月はこの辺でお別れとしましょう。引き続き、次回もお見逃しのないように!

それではまた来月まで、"Clear Skies" アロハ!

■ NASA JPL - JPL Small-Body Database Browser:


※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。

Ironwood Remote Observatory Hawaii(Ken Archer氏) バックナンバー

●掲載情報の無断転載はご遠慮ください。