天文との出会い
第18回 「ボーグシステムの紹介80φ鏡筒編」

Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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はじめに

前回を6月に書いて以来、実に5ヶ月ぶりの再開です。この夏の悪天候に阻まれ、予定していた月面の拡大撮影の写真が撮れずじまいで、ズルズルと原稿が遅れてしまいました。読者の方には誠に申し訳ありませんでした。月面の記事はまたの機会に延期させていただき、今回は最近人気の高いボーグ80φ鏡筒のシステム紹介をさせていただきたいと思います。

不況に強いボーグシステム

BORG77EDII金属鏡筒と101ED対物レンズの画像

(画像1)BORG77EDII金属鏡筒と101ED対物レンズ

カワセミの画像

(画像2)カワセミ(BORG101ED+1.4×+D300+手持ち)撮影:中川昇)

皆既日食の画像

(画像3)皆既日食(BORG101ED+1.4×+EOSKISSX2)撮影:川村晶氏

ボーグパーツの画像

(画像4)ボーグパーツ(用途に応じて使い分けが可能)

突然の世界的金融不安で、天文ファンも野鳥ファンも望遠鏡を買うどころではない状況ですが、なぜかボーグは逆に売上を伸ばしています。それはなぜか?私の分析はこうです。「限られた予算の中で、どの望遠鏡(望遠レンズ)を選んだらいいか?」と考えたときに、当然ですが、条件の中に次のような優先順位が出てくるわけです。

  1. 当然、予算内であること。
  2. システムアップができて、できるだけ将来に渡って投資した分が無駄にならないこと。(画像1)
  3. 天体だけでなく、野鳥など、多くの用途に高いレベルで対応できる「つぶしの効く望遠鏡」であること。(画像2)
  4. 来年の皆既日食等、車を使えない移動で使える。軽くて、小さくばらせる機材であること。(画像3)
  5. 周辺アクセサリーが豊富で、小遣いの範囲で買い足す楽しみがあること。(画像4)

このなかで今、私が重要だと考えるポイントは、(2)と(5)です。

従来の望遠鏡(望遠レンズ)には、この(2)と(5)の要素が決定的に欠けているのです。特に(5)の要素、「いじくりまわす楽しみ」がボーグにはあるのです。これが、不況に強いボーグの強みだと思います。つまり、そうそう趣味にお金をつぎ込めない、新しい機材を買い換えることもそうはできない。それでも「あれもやりたい、これもやりたい」と思うのが人間の性というもの。その要求にとことん応えているのが、ボーグシステムなのです。

よく「ボーグは全部揃えるとかなりの金額になる、決して安くないよ」と指摘する方がおられますが、これは一面当たっています。が、違う見方も可能です。というのは使って面白いからこそ、さまざまなパーツに投資して、自分のボーグをシステムアップして、何度も楽しめるわけです。これがシンプルな望遠鏡(望遠レンズ)だったらどうでしょうか?機材はいじりようがありませんから、投資のしようもありません。機材をいじる楽しみが最初からないわけです。この辺りは「シンプル・イズ・ベスト」と考えるのか「趣味としては工夫の余地が残されていたほうが楽しい」と考えるのか、ユーザーにもよるかと思います。ただ、この不況の時代、ユーザーの工夫の余地が大きく残された望遠鏡(望遠レンズ)の方が「長く楽しめてお得」という考え方が急増している感じがします。

鏡筒と接眼部をシステム化

フロントヘリコイドアダプター【7130】の画像

(画像5)フロントヘリコイドアダプター【7130】

各種80Φ延長筒の画像

(画像6)各種80Φ延長筒(短いほうから25、50、135、150ミリ)

各種ヘリコイドの画像

(画像7)各種ヘリコイド(左から【7837】【7857】【7758】)

マイクロフォーカス接眼部の画像

(画像8)マイクロフォーカス接眼部

フェザータッチフォーカサーの画像

(画像9)フェザータッチフォーカサー

それでは、具体的にボーグはどのようなシステムアップが可能なのでしょうか。大きく分けて、鏡筒のシステム化と接眼部のシステム化の2種類があり、その2種類を組み合わせると実に様々なことが行なえます。ただ反面、その汎用性の高さから、システムが複雑といわれる所以でもあります。

< 鏡筒システム >

  • フロントヘリコイドアダプター【7130】(画像5)
    ヘリコイドに重いアクセサリーを装着すると、ヘリコイドの動きが鈍くなることがあります。ヘリコイドのたわみを防止するパーツもありますが、このフロントヘリコイドアダプターは、ヘリコイドを鏡筒の前に持ってくることにより、たわみを防ぐと同時に、接眼部側が重くなりすぎることを防ぐ意味合いもあります。
  • 各種80φ延長鏡筒(画像6)
    これはもうボーグならではの芸当です。鏡筒を継ぎ足したり、短くしたり、他社の望遠鏡なら特注加工が必要なところですが、ボーグなら鏡筒の長さ調節が市販品で簡単に可能になります。これにより、双眼装置やプリズム類の装着による合焦を可能にしたり、接眼部側でではなく対物側で延長したりと、「こうしたい、ああしたい」という要求にある程度お応えできるのです。

< 接眼部 >

  • 各種ヘリコイド(画像7)
    80φシステムに標準で付属しているヘリコイドM以外にも、強度を増したヘリコイドMDX【7837】、薄型のM57ヘリコイドDX【7858】などなど、実に10種類のヘリコイドが装着できます。重ねて使用することにより、ヘリコイドの可動範囲を広げることも可能です。
  • マイクロフォーカス接眼部【9797】(画像8)
    どうもヘリコイドは性に合わないという方は、流行のマイクロフォーカス接眼部【9797】も用意しています。構造上、重量物によるたわみはなく、非常にスムーズな合焦が可能です。第17回でもご紹介しています。
  • FTF(画像9)
    フェザータッチフォーカサーは、マイクロフォーカスよりもさらにスムーズで、文字通り鳥の羽のようなスムーズさを実現しています。高価ですが、その価値はじゅうぶんあると思います。ボーグオリジナル品は、手前にM57ネジを装備しています。

まとめ

いかがでしょうか。確かにボーグシステムは一見複雑に見えますが、ある程度わかってくると、「こんなに楽しい望遠鏡は他にない」ということに気が付かれるでしょう。

そうすると、ボーグは見たり撮ったりという単なる道具ではなく、自分だけの望遠鏡を組み上げたり試行錯誤する楽しみを持った「部屋の中でも楽しめる望遠鏡」となるのです。次回は、80φ鏡筒システムよりもさらに自由度の高い、「ミニボーグシステム」について、ご紹介します。

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