死にゆく星を取り巻く、巨大な水蒸気の雲のなぞが解けた

【2010年9月6日 ESA

ESAの赤外線天文衛星「ハーシェル」による観測で、死にゆく星の周囲に巨大な水蒸気の雲が誕生するメカニズムが明らかになった。宇宙空間における水の生成には紫外線が重要な役割を果たしているようだ。


(ハーシェルによるIRC+10216の画像)

ハーシェルがとらえたIRC+10216。クリックで拡大(提供:ESA/PACS/SPIRE/MESS Consortia)

IRC+10216(別名しし座CW星)は赤色巨星という老年期にある星だ。質量は太陽の数倍だが、核融合の燃料を使い切った星の外層は太陽の数百倍にも膨れ上がっており、わたしたちの太陽の位置にあれば、火星はゆうに飲み込まれてしまう。

この星は「炭素星」の1つとしても知られている。太陽をはじめ多くの恒星の組成は炭素に比べて酸素が多いが、逆に炭素星は炭素の方が多く、この種の星が多くの水を生成するとは考えられていなかった。

しかし、2001年にIRC+10216の周りに巨大な水蒸気の雲が発見され、水がどこからやってきたのかを調べる研究が始まった。当初は、IRC+10216の熱によって彗星などの天体が蒸発したためではないかなどと推測された。

IRC+10216は約500光年の距離にある。地上の大口径望遠鏡による可視光観測ではかろうじて検出できる程度の星だが、赤外線波長では、もっとも明るい星の1つとして観測される。その理由は、星を取り囲む巨大なちりの雲だ。ちりは、ほぼすべての可視光を吸収し、その熱が赤外線の波長で放射される。IRC+10216の水蒸気はそのちりの雲の中に発見され、これまで起源は不明であったが、なぞを解く重要な手がかりがハーシェルによって得られた。

ハーシェルの観測によって明らかにされたのは、IRC+10216の周りに存在する水の温度が摂氏マイナス200度から800度と幅広いことである。彗星が崩壊して作られる水より高温であることから、彗星が近づくことができないほど恒星に近い場所で生成されたことが示されたのだ。

以前の観測でも、ちりの雲の中に塊状の構造がとらえられていたのだが、ハーシェルによる水の検出で、周囲の星からの紫外線がちりの雲の奥深くにある塊と塊の間に届いて一酸化炭素や一酸化ケイ素などの分子を分解し、放出された酸素原子が水素分子と結びついて水が形成されるというプロセスが明らかになった。ベルギーのルーベン・カトリック大学のLeen Decin氏は、「検出された温度の幅広さを唯一説明できるのは、このメカニズムだけです」と話している。

Decin氏らは今後さらなる観測を計画しており「ハーシェルによって、ほかの炭素星の周りに同じ状況が発見されることを願っています」と話している。