故郷を離れ300光年以上を旅した星

【2010年5月19日 HubbleSite

ハッブル宇宙望遠鏡が、生まれ故郷である星団からはじき飛ばされて300光年以上も移動したと思われる星をとらえた。星がひしめく巨大な星団では、大質量星どうしの重力の働きでこのような現象が引き起こされると予測されていたが、それを裏付ける証拠が観測で得られたのは初めてのことだ。


(かじき座30星雲中の星団R136とはじき飛ばされた大質量星の画像)

(左)かじき座30星雲中の星団R136、(右下)はじき飛ばされた大質量星。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, C. Evans (Royal Observatory Edinburgh), N. Walborn (STScI), and ESO)

(連星(A・B)に別の星(C)が接近したために、(A)がはじき飛ばされるようすを示したイラスト)

連星(A・B)に別の星(C)が接近したために、(A)がはじき飛ばされるようすを示したイラスト。クリックで拡大(提供:Illustration Credit: NASA, ESA, and A. Feild (STScI), Science Credit: NASA, ESA, C. Evans (Royal Observatory Edinburgh), N. Walborn (STScI), and ESO)

かじき座30星雲は、別名タランチュラ星雲(NGC 2070)とも呼ばれ、かじき座の方向約17万光年の距離にある「大マゼラン雲」の中にある星形成領域である。

英・エジンバラ王立天文台のChris Evans氏らのチームが、かじき座30星雲の領域に存在する900個以上の星を調べるプログラムを進めていた2006年、周囲のどの星団からも離れて孤立した大質量星を偶然に発見した。

この星をハッブル宇宙望遠鏡(HST)に搭載されている宇宙起源分光器(COS)で観測したところ、星はこれまでに375光年も移動しており、その出発点がかじき座30星雲の中心に位置する巨大な星団R136である可能性が示唆された。この星団には、太陽の100倍ほどの質量を持つ星が存在している。

発見された星の移動速度は時速40万km以上で、地球と月の間をたった2時間で往復できてしまうほどのすさまじい速度であることもわかった。さまざまな追加観測や過去の画像の再調査により、この星は太陽の90倍ほどの質量を持つ単独の若い星である証拠が得られている。

どうやら、この星は太陽の150倍ほどの質量を持つ星と出会ったために、生まれ故郷から放り出されてしまったようである。COSチームのメンバーで、宇宙望遠鏡科学研究所のNolan Walborn氏は「理論から予測はされていましたが、密集した巨大な星団の中でこのようなダイナミックなプロセスが進んでいることを示す直接的な証拠が得られたのは、初めてのことです」と話している。

この現象が引き起こされる原因として、2つの可能性が考えられている。1つ目は、密集した星団内で、ある星がより質量のより大きな星に遭遇して、天体同士の重力の働きによってピンボールゲームのようにはじき飛ばされてしまう可能性。2つ目は、連星系で起きた超新星爆発によるものである。

Walborn氏と同じCOSチームのメンバーDanny Lennon氏は「いずれの可能性も、現在一般的に受け入れられている考え方ですが、R136は100万〜200万歳とひじょうに若い星団です。最大級の質量を持つ星が超新星爆発を起こすには、まだ早過ぎます」と超新星爆発による可能性を否定している。

この星以外にも、高温の大質量星がかじき座30星雲の端からさらに離れた場所に観測されており、これらの星も生まれ故郷から放り出されたのではないかと考えられている。今後研究チームでは、それらの星も詳しく調べる予定だ。