銀河系中心のアウトサイダー

【2006年8月14日 Gemini Observatory Announcements

銀河系のほぼ中心に存在する中間赤外線源IRS-8の観測で、周辺の大質量星より250万歳も若い350万歳の高温星が確認された。銀河系の中心の領域では、高温の星はすべて同時に形成されたと考えられている。350万歳という若さは、広く受け入れられているこの考え方に真っ向から疑問を投げかけている。


(2000年ジェミニ北望遠鏡が捉えた銀河系の中心領域(左)とIRS-8の拡大白黒画像(右)) (2000年ジェミニ北望遠鏡が捉えたIRS-8の拡大カラー画像)

(上)2000年ジェミニ北望遠鏡が初めて捉えた銀河系の中心領域(左)とIRS-8の拡大画像(右)。弧を描くバウ・ショックが捉えられている(提供:International Gemini Project, AURA, NSF)、(下)IRS-8の拡大カラー画像。上・下画像ともにクリックで拡大(提供:Gemini Observatory, National Science Foundation and the University of Hawaii Adaptive Optics Group)

IRS-8は天の川銀河の中心付近、バウ・ショック(衝撃波)領域の中心にある中間赤外線源だ。1990年代には1秒角ほどの小さなしみとして観測されるにとどまっていたため、中心星であるIRS-8*の存在すら確認することはできていなかった。

その驚くべき構造が明らかになってきたのは、ジェミニ望遠鏡の目が初めて銀河系の中心に向けられた2000年以降のことだ。その後の観測結果から、研究家は、IRS-8のバウ・ショックは高速の恒星風が濃い星間ガスの中を高速で横切るために引き起こされているのではないかと考えてきた。今回、ジェミニ北望遠鏡に搭載された中間赤外線分光器によって中心の星とバウ・ショックの分離が可能となり、得られたスペクトルから中心星IRS-8*の正体が明らかになった。

中心星IRS-8*は巨星または超巨星であることがわかり、さらにコンピュータ・モデルによるスペクトル解析では、星の温度が36000ケルビン、明るさは太陽の約35万倍、質量は約44.5倍という結果が得られた。注目すべきはこの星の年齢で、単独の星である場合は350万歳ほどと考えられている。通常、銀河系の中心に存在する多くの高温の巨星の年齢は600万歳ほど。それと比較するとIRS-8*は、明らかに現在受け入れられている銀河系中心の高温星の形成過程とは相容れない存在である。なぜなら、銀河系中心の高温星は、爆発的に一斉に形成されたと考えられているからだ。たった1パーセク(約3光年)の領域に存在する他の高温の星より250万歳も若いIRS-8*は、現時点で研究家も頭をかしげるアウトサイダー(部外者)的な存在といえる。

もっとも、IRS-8*が連星系である可能性もある。連星かどうかは、2つの星の間で起こる質量移動を調べれば確認することができるはずだ。ジェミニ観測チームでは、IRS-8*が単独の星であるか連星系であるかどうかを明らかにするため、今後もIRS-8*の観測を予定している。