2007年5月の星だより

【2007年5月1日 アストロアーツ】

春も後半に入り、暖かいどころか暑くて汗ばむような日も珍しくなくなりました。しかし、その分だけ夜の冷え込みは強く感じられます。星見の際は油断せずに、服を着込んで臨みましょう。見ごろを迎えた春の星座を中心に、注目の現象や天文学の話題を紹介します。


春の星座はスケールが大きい

(おおぐま座)

おおぐま座。星座線はあくまで慣例的に使われているもので、正式に定義されているのは境界線だけ。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

(うみへび座、おとめ座、おおぐま座)

5月15日20時ごろの空。大きな星座トップ3、うみへび座・おとめ座・おおぐま座の境界線を表示した。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

冬や夏の星空はにぎやかですが、それだけに、慣れていない方はどれがどの星なのか混乱してしまうかもしれません。春は明るい星がまばらですが、実にうまく配置されているおかげで、とてもたどりやすいはずです。「さらに詳しい情報」で紹介しているページを参考にしてください。

星探しの起点となるのが「北斗七星」です。夜8時ごろに北の空を見上げれば、ひしゃくをひっくり返したような星の並びが見つかります。特徴的な形なので、強い街明かりにさらされるような場所でなければ、方角がわからなくても発見できるでしょう。

北斗七星は単独の星座ではなく、文字どおり大きな熊をかたどった「おおぐま座」の腰からしっぽに相当します。北斗七星はわかっても、おおぐま座全体をたどったことはない方が多いことでしょう。北斗七星以外に明るい星がないので、街中で探すのは難しいですが、暗いところで春の夜空を見上げる機会があったら星図と照らし合わせてみてください。熊の足先に相当する、3組の星のペアが比較的見つけやすいと思います。

北斗七星自体が大きいので、明るい空でも想像をめぐらせば、おおぐま座全体がとても大きいことがわかると思います。星座は全部で88個ですが、おおぐま座の面積は3番目に広いものです。

ここで、「星座の面積って?」と疑問に思われる方がいるかもしれません。星座といえば星をつなぎ合わせたものを連想されることでしょう。実を言うと、現代天文学では「星の結び方」は正式には決まっていません。国際天文学連合で定義された「星座」というのは、88個に分けられた空の区画を指します(決定したのは1928年)。おおぐま座の結び方も(そしてもちろん北斗七星の結び方も)正しいものは存在せず、あるのは「おおぐま座」という区画だけです。

ふだんの感覚からは不思議に感じるかもしれませんが、現代天文学では、星座はおおよその方向を示すのに使われます。「しし座の方向77光年の距離」といった表現は、アストロアーツニュースでもよく利用しています。

話が少々脇道にそれてしまいましたが、おおぐま座は全天で3番目に大きな星座です。夏や冬とは違って星がまばらなので、古代の人々が明るい星を選んで星座を作ったとき、春の星座はどうしても大きくなってしまったのでしょう。2番目に大きなおとめ座も、1番大きなうみへび座も、春の星座です。うみへび座は広いだけでなく、東西にとても長いことで知られています。この時期、うみへび座は日没後の空に全身を出していて、午後10時ごろになると西の空に頭が沈み始めます。ところがしっぽが完全に沈むのは翌日の午前4時、もう東からは太陽が昇ろうとしているころです!

これほど大きな星座なのに、うみへび座の星をたどるのは困難です。心臓にあたる赤い2等星「アルファルド」以外は、街中だと見ることすらできません。同じことは、ほかの春の星座にも言えます。ですが、たまには星座を結ぼうとするのではなくて、区画として追ってみるのもよいのではないでしょうか。実際の空で「大体この辺からこの辺かな」と見当をつけるだけでも、星座の大きさが実感できるでしょう。気候に合わせたかのように、春の星座はゆったりしていますから、観察しているうちに自分ものんびりとした気分になれるはずです。

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条件が悪くてもあきらめるには早い!みずがめ座η流星群

(ハレー彗星と地球の軌道の図)

ハレー彗星と地球の軌道。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

ゴールデンウィーク恒例の天文現象と呼ばれるのが、5月6日前後の明け方に見られる「みずがめ座η(エータ)流星群」です。この流星群、南半球なら1時間に50個以上のペースで流星が見られる一大イベントなのですが、北半球では放射点(流星が流れてくるように見える中心点)があまり高く昇らないため、あまり注目されません。しかも、今年は満月過ぎの明るい月が高く昇っているので、ふつうなら無視してしまいたいところです。

しかし、「条件最悪」とさえ言える今年のみずがめ座η流星群に、少なからぬ研究者・観測者が関心を寄せています。そのきっかけは、昨年10月の「オリオン座流星群」の突発出現でした。

1時間あたり10個程度とあまり目立たないオリオン座流星群が、ピーク時には1分間で3〜4個も見られるほどの大出現だったことは、アストロアーツニュースなどでもお知らせしたとおりです。実はこのオリオン座流星群、みずがめ座η流星群と兄弟のような関係にあるのです。流星群は、彗星が軌道上に残したチリの集まりが地球と遭遇することで発生するのですが、2つの流星群の元となるのは、同じハレー彗星。その片方が活発な出現を見せたのですから、もう片方も例年以上の出現を起こすと考えて不思議はありません。

もっとも、最近の流星予報は進んでいて、そんなに単純には議論できません。彗星が残したチリは、軌道上で1本に集まっているわけではなく、彗星が通過するたびに新しい「ダスト・トレイル(チリの道)」ができます。流星群の出現を予想する場合、この「トレイル」の正確な位置を一本一本計算するのが最近のやり方で、2001年のしし座流星群大出現を当てて以来、完全に定着しました。

今年のみずがめ座η流星群については、国立天文台の佐藤幹哉さんらがダスト・トレイルと地球の位置関係を計算しています。すると、紀元前836年にハレー彗星が残したトレイルがちょうど地球と遭遇することがわかりました。流星群の出現数にはさまざまな要素が絡むので、「突発的に増加する」とは言い切れません。しかし、ゴールデンウィークの最後を飾るお楽しみと考えればちょうどよいのではないでしょうか。

予想される極大時刻は5月6日の23時前後。ただし、日本では7日の午前1時ごろまで放射点が昇ってきません。南の空で輝く月明かりを避ける工夫をして観測しましょう。

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惑星と月でにぎわう、夕方の空

圧倒的な明るさで輝く宵の明星・金星はすでに多くの方が目にされたことでしょう。今月も日没後の西の空でいっそう目立っていますが、下旬になると、さらに2つの惑星が加わります。土星と水星です。土星は2月に衝(地球から見て太陽の反対側に位置した状態)を迎えましたが、現在徐々に太陽へ近づいています。逆に、水星は太陽から遠ざかりつつあり、6月2日に東方最大離角(太陽の東側に一番離れた状態)を迎えます。

3つの惑星が集まったところに、月も仲間入りします。新月を過ぎたばかりの18日には水星と、20日には金星と接近します。新月から三日月にかけてのころなので、月はとても細い形をしていますが、空が暗ければ欠けた部分に注目してみてください。淡く輝いているのがわかるはずです。これは「地球照」と呼ばれる現象で、地球の照り返しによるものです。

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