「すざく」最新観測成果(2) 銀河風で飛ばされる「帽子」

【2006年12月15日 宇宙科学研究本部

日本のX線天文衛星「すざく」が、銀河M82のすぐ上に存在する「帽子」のようなガスの塊をとらえた。帽子と言っても、それ自体小規模な銀河に匹敵するサイズの構造だ。ガスは超高温のプラズマ状態で、どうやら銀河内部の大爆発によって吹き飛ばされたらしい。


(すざくの裏面照射型CCDで得たX線画像)

すざくのXISがとらえた「M82の帽子」。M82銀河本体の画像は、NASAのX線天文衛星チャンドラ、ハッブル宇宙望遠鏡、赤外線天文衛星スピッツァーのデータを合わせた3色合成画像。クリックで拡大(提供:「帽子」付近:「すざく」チーム | M82(X線):NASA/CXC/JHU/D.Strickland | M82(可視光): NASA/ESA/STScI/AURA/The Hubble Heritage Team | M82(赤外線): NASA/JPL-Caltech/Univ. of AZ/C. Engelbracht)

「すざく」が撮影したのは、おおぐま座の方向にある不規則銀河M82(解説参照)付近である。銀河から3万8000光年離れた、地球から見て北の方向には淡いガスの塊がある。研究チームが「M82の帽子」と呼ぶこの構造は、幅1万2000光年、厚さ3000光年という銀河スケールの大きさを持っているにもかかわらず、あまりにも淡いためこれまでじゅうぶんに観測されたことがなかった。

「すざく」のX線CCDカメラ(XIS)は「M82の帽子」をこれまでになく鮮明に写し出すとともに、詳細なスペクトルのデータを得た。それによれば、「帽子」は約700万度であり、ガスはプラズマ(物質がイオンと電子に分かれた状態)になっている。さらに、酸素、ネオン、マグネシウム、ケイ素などが豊富に含まれている。これらの重元素は、巨大恒星が進化の最期に起こす超新星爆発によって形成されるものだ。そうした巨大恒星を含む銀河から3万8000光年離れたガスの塊の中に重元素があるということは、「帽子」はもともと銀河の一部だったことを示唆している。

さらに、「帽子」とM82の間にもプラズマが分布していること、そしてそれらのプラズマが秒速数百キロメートルでM82から遠ざかっていることがわかった。逆算すると、約2000万年前にM82で大爆発が起こり、「銀河風」と呼ばれる超高温プラズマの流れができて「帽子」のもとになったことになる。

大爆発の正体は、「帽子」の成分からも想像されるように超新星と考えられる。それも1回の爆発ではなくて、およそ1万個の超新星が次々に発生したようだ。巨大な恒星ほど短命である。つまり、いっせいに超新星爆発が起きたことは、いっせいに巨大恒星が誕生したことを意味する。M82は活動的な銀河なのだ。

以前の観測で「すざく」は、われわれの天の川銀河中心付近は相次ぐ超新星爆発によって超高温プラズマで満たされていることを証明した。M82の場合は、爆発の規模がはるかに大きく、銀河の外へ物質を吹き飛ばすほどだったことになる。

今回の観測を行ったチームは、過去にM82からブラックホールを発見している。そして、そのブラックホールが、約100万年前に起きたおよそ1万個の超新星による大爆発の中から生まれた、とも結論づけている。2000万年前と100万年前に起きた、大規模な星形成と超新星による大爆発。M82は現在も活動を続けているので、今後も同じような現象が起きるかもしれない。

一方、「M82の帽子」は今後も高温状態を保ちながら、銀河風に乗って秒速数百キロメートルで漂い続けるだろうとのことだ。

M82

おおぐま座の頭部にある不規則銀河、わずかに0.6度ほどの間隔でM81(渦巻銀河)と並んでいる。天の北極に近いので、はほぼ1年中見られる。秒速1000キロメートルもの速度で、銀河の中心から星群が噴出しており、銀河の円盤面から約1万光年以上に達する星のつながりが観測されている。M82が不規則な形をしているのは、隣の銀河M81との相互作用の結果、爆発的な星形成が進行しているからだと考えられている。(「ステラナビゲータ Ver.8」天体事典 より抜粋)