超新星爆発の主役は舞台の隅に−残骸中で謎のふるまいを見せる中性子星

【2006年6月6日 Chandra Photo Album

NASAのX線観測衛星チャンドラによって、超新星残骸IC 443の中を航跡を残しながら旅する中性子星が見つかった。驚いたことにこの中性子星は、超新星爆発を起こした張本人でありながら、爆発の中心とは完全にずれた位置で関係ない方向に移動しているように見える。


(超新星残骸IC 443の画像)

超新星残骸IC 443とJ0617のクローズアップ(右下)。チャンドラとROSAT(米独英によるX線観測衛星)のX線観測(青)、超大型電波干渉計(VLA)の電波観測(緑)、デジタルスカイサーベイDSSの可視観測(赤)による3枚の画像を重ねた。クリックで拡大(提供:Chandra X-ray: NASA/CXC/B.Gaensler et al; ROSAT X-ray: NASA/ROSAT/Asaoka & Aschenbach; Radio Wide: NRC/DRAO/D.Leahy; Radio Detail: NRAO/VLA; Optical: DSS)

超新星残骸(解説参照)は爆発を反映して球殻状に広がる。それならば爆発を起こした後に残される中性子星などの天体は、その中心にいるのが当たり前に思えるし、実際かに星雲(M1)など多くの超新星残骸で確かめられている。

超新星残骸IC 443(解説参照)も、別名「くらげ星雲」と呼ばれるように丸い形をしている。しかし、超新星を起こしたと見られる中性子星、J0617(正式にはCXOU J061705.3+222127)の様子はあまりに奇妙だ。可視光・電波・X線による写真を合成した右の画像からもわかるように、J0617は残骸の隅に近いところにある。そして何より不思議なのが、J0617から伸びているしっぽだ。船が水面に航跡を残すように、このしっぽもJ0617が高温のガスの中を移動した航跡に違いないのだが、明らかに爆発の中心とは違う方向を向いている。どうして超新星爆発の主役がこんなところで、こんな気まぐれな動きをしているのか。多くの天文学者が頭を抱えている。

そもそもJ0617はIC 443の超新星爆発と関係ないのでは、と考えたくなるが、両者を結びつける証拠がある。まず、IC 443は超新星爆発からおよそ3万年経過していると計算される。J0617の中心からのずれを考えると、爆発以来時速80万キロメートルで移動していることになるが、これはJ0617の航跡から推測される現在の移動速度とほぼ等しい。一方、J0617の温度は、年齢が3万年に近いことをうかがわせる。確かに、J0617は超新星爆発を起こした後の中性子星であり、IC 443はそのときに飛び散った残骸なのだ。

実際に超新星残骸の中心から離れた位置に中性子星が見つかることは多い。爆発の勢いで自らも外側へはじかれたのだろう。だが、それならば(他の中性子星で実際に確かめられているように)J0617は爆発の中心と正反対の方向へ動いているはずだ。なぜ、航跡は中心方向に対してほとんど垂直に向いているのだろうか。

この問題は未解決だが、いくつか仮説が示されている。1つは、後にJ0617となる恒星が、超新星爆発を起こす前は高速で移動していたというものである。その場合、「見かけの爆発地点」である超新星残骸の中心は、元の恒星の移動を反映して「実際の爆発地点」からどんどんずれていくので、航跡のずれを説明できる。もう1つは、航跡自体が残骸中のガス流によって流されてしまっているというものだ。似た例としては、彗星の尾が挙げられる。彗星から放出されたガスは、彗星が通った後に残されるのではなくて、太陽風の影響を受けて太陽とは反対方向に伸びる。そのため、われわれから見た彗星の尾は、移動経路とは関係ない方向に伸びているのだ。

すべてを確かめるには、今後10年にわたってJ0617を観測し、実際の移動方向を調べる必要がある。超新星の主役は、舞台の中央から離れていくことで余計に注目を浴びる結果となった。

超新星残骸

超新星の爆発で吹き飛んだガスがつくる残骸。球殻状に広がりながら周囲の星間ガスと衝突し、その衝撃波でガスが加熱されるなどしてX線や電波を発している。かに星雲をはじめとして、はくちょう座の網状星雲、ケプラーの超新星残骸、ティコの超新星残骸などが有名である。

くらげ星雲(IC 443)

ふたご座にある比較的明るい超新星残骸。視直径 45'、距離 2000〜5000光年。

(ともに「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)