すばる望遠鏡「暗黒物質の巣で育つ銀河の雛たち」を観測

【2006年1月6日 国立天文台 アストロ・トピックス(172)

米国宇宙望遠鏡科学研究所、国立天文台などからなる研究チームは、すばる望遠鏡を用いて、約120億光年彼方にある生まれて間もない銀河が「暗黒物質の塊」の中にある証拠を得ました。さらに、その「暗黒物質の塊」の中には銀河が1個とは限らず、時には複数の銀河が育まれていることを世界で初めて発見しました。

(「暗黒物質の塊」の中で育まれる銀河の想像図)

暗黒物質の塊」の中で育まれる銀河の想像図。(青色(疑似カラー)のもやもやが暗黒物質、青白いほど密度が高い)クリックで拡大(提供:(作成)石川直美、武田隆顕(国立天文台))

暗黒物質とは、望遠鏡で直接観測することのできない、正体不明の物質です。その周りにある星やガスを強い重力で引っぱるため、その存在が知られるようになりました。最近の研究によれば、宇宙にある暗黒物質の総質量は、直接観測できる物質全体の約7倍にもなることが知られています。これほどの量の暗黒 物質が宇宙に存在するのなら、宇宙の歴史の中で、銀河の誕生や成長に対して、中心的な役割を担っているはずです。しかし、直接観測できない暗黒物質の様子を、どうすれば調べられるのでしょうか?

宇宙の中で銀河同士は「群れ」を作っていることが知られています。このような銀河の「群れ方」は重力に大きく支配されており、宇宙の質量の大部分を担っている暗黒物質の影響を色濃く受けているはずです。銀河の「群れ方」を詳細に調べれば、暗黒物質がどのように分布しているかもわかるはずです。しかし、銀河がどのように群れているかを調べるためには、たくさんの銀河を観測しなければなりません。特に、生まれて間もない銀河は、見かけ上とても暗いため、これまでたくさん見つけることは非常に困難でした。

研究チームはまず、すばる望遠鏡の主焦点カメラを用いて、くじら座とかみのけ座の方角の広い2つの領域(SXDS、SDF(注))を観測し、約120億光年彼方にある生まれて間もない銀河を数多く見つけ出しました。そして、それらの銀河の「群れ方」を詳細に調べ、理論モデルが予測する群れ方と比較することにより、生まれて間もない銀河が確かに暗黒物質の塊の中にあり、時には1つの暗黒物質の塊の中に複数の銀河がある観測的な証拠を、この2つの領域で独立に得ました。

この研究により、宇宙初期の時代において、現在の主流である冷たい暗黒物質による銀河形成理論の予言通りに、若い銀河が暗黒物質に包まれていることを、初めて明確に裏付けました。生まれて間もない銀河は、あたかも雛鳥のように「暗黒物質の塊」という巣の中ですくすく育っていたのです。さらにその巣の中で雛鳥が2、3羽仲良く寄り添っている場合も発見されました。

この研究成果は、アストロフィジカル・ジャーナル誌2005年12月20日号及び2006年2月1日号に掲載される予定です。

注:SDF=すばるディープフィールド、SXDS=すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ