東大グループ、もっとも像の離れたクエーサー重力レンズを発見

【2003年12月19日 東京大学理学部宇宙理論研究室(UTAP)

日米独の国際共同観測プロジェクト・スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)に参加している東京大学理学系研究科の重力レンズ探索グループが、こじし座の方向に今までで最も強く曲げられたクエーサー重力レンズ像を発見した。

(すばる望遠鏡によるSDSS J1004周辺のイメージ)

すばる望遠鏡によるSDSS J1004周辺のイメージ(提供:東京大学・国立天文台)

重力レンズ効果とは、ひじょうに強い重力の天体による重力場の影響で宇宙空間がゆがめられ、背後の天体から放射される光線が屈折させられることによって、元の天体の姿が変形したり拡大されたり、複数の像となって観測されたりする現象である。

今回発見された重力レンズシステムSDSS J1004の場合、約62億光年の距離にある太陽の300兆倍程度の質量を持つ巨大銀河団によるレンズ効果で、約98億光年離れたクエーサーが4つの像をつくっている。その像の間の距離は14.6秒角で、これまでに発見されたクエーサー重力レンズの離角記録を一挙に2倍以上更新した。これは、今まで発見されていたクエーサー重力レンズが単独の銀河によって引き起こされていたのに対して、今回発見されたものは初めての銀河団によるものだからだ。この離角とクエーサーの距離から計算すると、あたかも最大41万光年離れたような4つの天体が存在しているかのように見えていることになる。

日米独の国際共同観測プロジェクト・SDSSは、米国ニューメキシコ州アパッチポイント天文台の専用2.5m望遠鏡を用いて、銀河とクエーサーの全天宇宙地図を作り上げるのを目的とした観測プロジェクトだ。当初、この2.5mの望遠鏡による観測では、本物の重力レンズシステムかどうか確証は得られなかった。そこで、すばる望遠鏡での撮像観測を行ったところ、天球上で4つの像と同じ位置にある巨大銀河団を発見し、これによって重力レンズ源が特定された。さらに、ハワイのマウナケア山頂にあるケック望遠鏡の分光観測によっても、4つの像のスペクトルの一致が示された。今回の発見は、SDSS、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡という3つの施設を極めて有効に活用した結果だ。

銀河団による重力レンズシステムは、標準的な暗黒物質モデルからその存在が予言されていたが、今までは未発見のままで大きな謎とされてきた。今回の発見は、モデルの正しさを実証したと同時に、新たな種族の重力レンズ現象の存在を確立したことになる。また、最大離角というユニークな特性を利用することで、銀河団の質量分布を推定し暗黒物質の性質を探る、4つの像を定期的にモニター観測してクエーサー中心のブラックホールの活動性を調べる、レンズ像ごとに光の到達する時間が遅延するから宇宙の距離尺度を正確に推定する、など、従来では達しえなかった信頼度の高い観測的研究が可能となるだろう。今後さらに多くの観測的、理論的研究が期待される。

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