銀河団によるクエーサー重力レンズシステムを発見

【2003年12月24日 国立天文台・天文ニュース(690)

スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)の重力レンズ探索グループは、今まで知られているうちで最も強く曲げられたクエーサー重力レンズ像を、こじし座の方向に発見しました。

今回発表された重力レンズシステムSDSS J1004では、地球から約98億光年の距離にあるクエーサーからの光が、途中の約62億光年の距離にある太陽の300兆倍程度の質量を持つ巨大銀河団による重力レンズを受けて、4つの像をつくっていることがわかりました。その像の間の距離は、14.6秒角で、今まで知られていた80個程度のクエーサー重力レンズの離角の記録を一挙に2倍以上更新したことになります。

今まで知られていたクエーサー重力レンズはいずれも、単独の銀河によって引き起こされていたのに対して、今回は一つ上の階層である銀河団による重力レンズシステムを初めて発見したため、大幅に記録が更新されたのです。実はこのような銀河団スケールの重力レンズは、標準的な暗黒物質モデルからその存在が予言されていたにも関わらず、これまでは未発見のままでした。今回の発見によって、この理論予言の正しさを初めて実証したとともに、新たな重力レンズ現象の存在を確認したことになります。

日米独の国際共同観測プロジェクトSDSSは、米国ニューメキシコ州アパッチポイント天文台の専用2.5メートル望遠鏡を用いて、銀河とクエーサーの全天宇宙地図を作り上げようとする壮大な観測プロジェクトです。しかし、2.5メートル望遠鏡では、重力レンズシステムの候補を挙げることはできても、それが本物かどうかの確証は得られません。このためSDSS重力レンズ探査グループでは、別の大型望遠鏡による追観測を行いました。

稲田直久(いなだなおひさ、東京大学大学院博士課程3年)さん、大栗真宗(おおぐりまさむね、同2年)さん、須藤靖(すとうやすし、東京大学助教授)さんらは、2003年5月29日、市川伸一(いちかわしんいち、国立天文台助教授)さんとともに、すばる望遠鏡で撮像観測を行い、この4つの像と天球上で同じ位置にある巨大銀河団を発見し、重力レンズ源を特定しました。

また、ほぼ同時期にハワイ州マウナケア山頂にあるケック望遠鏡での分光観測によって、この4つの像のスペクトルが一致することが示され、同一のクエーサーによる重力レンズ像であることを強く支持する結果が得られました。

今回の発見は、SDSS、すばる望遠鏡、ケック望遠鏡という3つの施設を極めて有効に活用することで成し遂げられたもので、とりわけ、すばる望遠鏡の集光力の威力を遺憾なく発揮した成果です。それによって、標準的な暗黒物質モデルの正しさがほぼ証明されたことになります。

(この結果は、2003年12月18日発売の英国科学雑誌Natureに掲載されました。)

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