触って調べる、タイタンの表面

【2005年12月20日 ESA News

私たちは、五感を使って物事を体験するのに対して、宇宙は普通「見る」ことしかできない。だが、太陽系の中の天体なら、私たちの代わりに探査機が「触る」ことができるようになってきた。今年だけでも、テンペル彗星を触るどころか思いっきり殴りつけたディープインパクト探査機と、小惑星イトカワの表面をかすめた「はやぶさ」が話題になった。ところで、この二つの探査機に先がけて、1月には小型探査機ホイヘンスが土星の衛星・タイタンに着陸している。あれから一年近くたち、ホイヘンスによるタイタンの「触り心地」がどんなものだったかがわかってきた。


(タイタンに着陸したホイヘンスと周辺の様子の想像図)

タイタンに着陸したホイヘンスと周辺の様子の想像。クリックで拡大(提供:ESA/C.Carreau)

ホイヘンスは、土星探査機カッシーニの子機で、タイタンに突入することを目的にヨーロッパ宇宙機関(ESA)により開発された。ホイヘンスに搭載されたさまざまな装置のうち、あたかも人間が触れてみるようにタイタン表面の物理的特徴を調べたのが、地表測定科学装置(SSP)と呼ばれる、一群のセンサーだ。SSPは、9つの独立したセンサーからなり、ホイヘンスの着陸地点が液体であった場合から固い表面であった場合まで、様々なケースが想定されていた。

ホイヘンスが最初に触れるのは、タイタンの表面ではなくその厚い大気だ。SSPの傾きセンサーによれば、タイタンの大気には乱流が存在するようだ。大気を激しくかき乱すメカニズムが何なのかは、今後の研究課題である。

SSPが本領を発揮するのは、着陸の瞬間だ。データを解析した結果、その様子はここまで克明になった:

探査機は10センチメートルほど表面にめり込み、その後ゆっくりと数ミリメートル沈み、最終的な傾きは、数分の1度だった。おそらくホイヘンスは、後に自身が撮影した画像にも写っている、そこらじゅうに転がっているたくさんの「小石」の1つにぶつかったのだろう。またタイタンの表面は、厚く張った氷のように硬くもなく、降り積もったばかりの粉雪のようにやわらかくもないこともわかった。

着陸したら、次に気になるのは表面に液体があるかどうかだ。SSPの中には液体中に着陸したときに、その液体の特性を調べるためのセンサーもあったが、いまのところ着陸地点は陸地であったと考えられている。もっとも、着陸の瞬間にメタン(タイタンに存在する液体の主成分と見られる)が蒸発したことが検知されているので、わずかな液体の痕跡でも見逃さぬよう解析が続いている。

それでは、触り心地からわかる実際の表面の様子とは、どのようなものだろうか。今のところ、二つの仮説がある。1つは、粘着性がほとんどない粒子でおおわれているというもの。そしてもう1つは、表面が液体を含むというものだ。

液体を含む、という場合には、地球で言えば、「ぬれた砂」であったり「粘土」であると考えられる。もっとも-180度という低温のタイタンでは、この例え方では本当の姿をイメージできるとは言いがたい。「ぬれた砂」というのは何らかの作用で砕けた氷が、液体のメタンにひたされている状態であり、「粘土」というのは、光化学作用で作られた物質と細かく砕かれた氷が集まってできる、ねばねばした物質だ。

とても遠く、とても冷たいこの衛星の「感触」を、私たちはある程度得ることができた。もちろん、ホイヘンスはタイタンを触るだけでなく、カメラを使って「見た」し、さらに音を「聞く」こともできた。大気を取り込み、その成分を調べる装置もあるので、においを「かいで」いるとも言えるだろう。後は、私たちがいつもしているように、五感を元にこの世界がどんなものであるかを考え続けるだけだ。


タイタン:タイタンは、土星の最大の衛星で、太陽系の衛星の中でも2番目の大きさです。1.6気圧もある濃い大気に包まれ、その大気は窒素からできてきます。地表はマイナス170℃しかありません。謎の多いタイタンを調べるため、2005年1月には、探査機カッシーニの突入機が着陸しました。(「太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)