新種の高エネルギーガンマ線源を発見

【2005年7月15日 PPARC News

H.E.S.S.(High Energy Stereoscopic System)プロジェクトに携わる天体物理学者の国際的チームが、新種の超高エネルギー(Very High Energy, VHE)ガンマ線源を発見した。中心にあるのは、クエーサーに似ているものの、実際にはより小規模なもので、銀河系内にある「マイクロクエーサー」と呼ばれる天体であると考えられている。

(コンピュータシミュレーションによるマイクロクエーサー LS5039の画像)

コンピュータシミュレーションによるマイクロクエーサー LS5039の画像。クリックで拡大(提供:PPARC Newsリリースページより)

H.E.S.S.のチームによって発見されたのは、LS5039とよばれる天体で、VHEガンマ線を放射している。LS5039は、マイクロクエーサーと考えられている。マイクロクエーサーの正体は、普通の恒星と中性子星(またはブラックホール)のようなコンパクトで重い天体からなる連星系だ。コンパクト天体の強力な重力によって、伴星から物質がコンパクト天体に引き寄せられ、旋回して落ち込んでいくのだ。コンパクト天体が取り込むことのできる以上の物質が流れ込むと、余分な物質が光速に近い速度の高速ジェットとなり放出される。これがマイクロクエーサーとして観測される。似たような天体としてクエーサーがあるが、こちらはコンパクト天体が太陽質量の1億倍にもなり、はるかに大きなエネルギーを放出している。しかし、マイクロクエーサーは、はるかに小規模ながら、われわれの天の川銀河の中に存在する天体なので、VHEガンマ線源として観測されるのだ。

LS5039のようなマイクロクエーサーは、まだ数例しか発見されていない。なかでもLS5039は、謎だらけの天体だ。コンパクト天体が中性子星のように振る舞っているかと思えば、ブラックホールのような性質も示している。さらに、吹き出している高速ジェットも実はあまり「高速」ではない。その速度は光速の20%だが、実はこれは同種の天体に比べるとかなり遅いのだ。おまけに、ガンマ線が放出されるメカニズムも不明だ。チームのあるメンバーは「こんな天体を見つけなければよかった」とまで語っている。彼によれば、このような天体から放出されたガンマ線は、この連星系から逃げ出すより、むしろ吸収されるはずだという。

もちろん、研究チームの多くはこの発見を喜んでいる。別のメンバーは、ガンマ線源のカタログに新種の天体を加えることができたことに興奮している。今後も、謎を解明するためにLS5039の観測を続けるそうだ。

ガンマ線は、宇宙における様々な劇的な現象により作られる。超新星爆発などがその一例だ。ガンマ線そのものは、同じ量の可視光よりもはるかに強いエネルギーを持っているが、地球に到達する量は非常に少なく、おまけに大気で吸収されてしまうので観測が難しい。H.E.S.S.はこれを逆手にとり、ガンマ線が大気に吸収されるときに発生する青い光=チェレンコフ光を観測することでガンマ線源を見つけるのだ。観測に使われる望遠鏡はアフリカの西南部、ナミビアにあり、ナミビアを含めた世界各国100人以上の科学者・技術者がこのプロジェクトに携わっている。


高エネルギー天体「はくちょう座X-1」 : はくちょう座にあるX線星。ブラックホール存在の最有力候補として早くから注目されていた。現在では、ブラックホールと高温の青色超巨星との近接連星系であると考えられている。(中略) X線強度の激しい変動が観測され、激しい高エネルギー現象が発生していると考えられる。(最新デジタル宇宙大百科「おもな高エネルギー天体」より)