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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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110(2014年3〜4月)

2014年10月4日発売「星ナビ」2014年11月号に掲載

273P/ポン・ガンバート周期彗星

本誌2013年7月号8月号にその再発見の経緯をくわしく紹介したこの彗星ですが、ICQ Comet Handbook(HICQ 2013)の予報光度では、この時期(2014年春)はまだ18等級と明るく、彗星は衝の位置近くを移動しているはずでした。しかし彗星の位置観測は2013年6月で止まっています。そのため、上尾の門田健一氏、東京の佐藤英貴氏、栗原の高橋俊幸氏に『いつも観測をいただきありがとうございます。上記の273P/Pons-Gambartですが、まだ明るいはずだと思って最終軌道を計算していません。しかし観測は2013年6月で止まっています。これから位置的には条件が良くなります。甘い予想では、光度は19等級ではないかと思うのですが、時間があったら一度、望遠鏡を向けていただけませんか。確認のため、可能なら二夜の追跡をお願いします。ただ、観測の報告がないということは、実際にはもっと暗いのかと考えていますが……』という観測依頼を送りました。なお、この依頼は、先月号で紹介した299P/カテリナ・PANSTARRS周期彗星の同定を見つける以前の3月27日12時56分に送られたものです。

すると、3月30日14時15分に高橋氏から「先日、観測依頼のあった273Pは、今年の2月19日にレモン山で20等級ほどの明るさでとらえられていることがMPC 87193に載っていました。実は昨日(3月29日夕方)に273Pに筒を向けて撮影したのですが、2分露光のフレームを5枚余り撮ったところで雲に阻まれてしまいました。そのうち再チャレンジしてみます。ただ、かなりハードルは高いと思います」というメイルが届きます。『えっ、観測を見逃していたのか……』と思いながら、その後の観測を調べると、確かに2月19日に約20等級で観測されています。そこで氏には15時11分に『あっ、本当だ。気づきませんでした。これで連結軌道がだいぶ良くなる(ただし改良が難しくなるかも……)でしょうが、しばらく他の観測を待ってみます』というメイルを送っておきました。

その夜のことです。佐藤氏から21時04分にメイルが届きます。そこには、この彗星の観測がありました。「観測日は2月22日、光度は20.8等で彗星は恒星状」とのことでした。少し遅れての報告でしたので、氏は多分、撮影しておいたフレームを見直してくれたのでしょう。翌31日に高橋氏にも『彗星名の間違い(先月号で紹介)について、この前書かなかったのが気になっているため、メイルします。間違いはご指摘のとおりです。連絡をありがとう。佐藤さんが次の2月22日の273Pの観測を送ってくれました』と佐藤氏のこの彗星の観測情報をつけておきました。

さて、4月7日発行のMPEC G32には、佐藤氏の観測と紫金山天文台の観測所にある1.04mシュミットで行われた4月4日の観測が掲載されていました。その光度は17等級と明るく観測されていました。そこで、4月14日にこの彗星の1827年と今回の出現を結んだ連結軌道を再計算し、その軌道(NK 2681)は、同日4月14日にEMESで送った「HICQ 2014のための軌道改良」の中に入れました。しかし、西欧で行われた3月5日の観測が5月7日発行のMPEC J58で公表されます。その光度は何と15等級でした。ただ一夜の観測でした。しかも計算した観測期間内の観測です。『アーク内で軌道の再計算は……』と他の観測を待ちましたが、その後の観測は報告されませんでした。しかし3月5日の観測も、連結軌道からのずれが大きく、別物を測定したようで、のちほど取り消されました。結局、NK 2681に掲載した軌道が今回の最終軌道となりました。なお、次の彗星の回帰は2191年6月16日となります。

へびつかい座の矮新星

2014年4月11日、久しぶりに当地を訪れた八ヶ岳の古谷麗樹さんを徳島空港まで送りました。この夜、特に4月12日早朝は日本全国で晴天だったようです。04時53分に群馬県嬬恋村の小嶋正氏から携帯に電話があります。「へびつかい座に新星状天体を見つけました」という報告でした。「発見報告はすでに送りました」とのことで、メイルを確かめると04時26分に氏からの報告が届いていました。さらに、その13分後の04時39分には、掛川の西村栄男氏からの発見報告が届いています。サブジェクトは、いずれも「新星状天体の発見」でした。『二人からほぼ同時に新星状天体の発見報告か』と思いながら両氏からの報告を見ました。というのは、これまでの経験から複数から発見が届いた場合は発見が正しいことが多く、特に新星の場合、今年に入ってから続いてきた矮新星の発見でなく、新星である確率が高くなります。

小嶋氏の報告は「過去画像に存在しない新天体らしきイメージを見つけました」から始まっていました。そして続いて「発見は2014年4月12日03時10分で、撮影した2枚の捜索画像上に写っています。光度は10.3等です。発見画像の極限等級は12.5等。前日の4月11日02時58分に撮影した極限等級が12等以下の捜索画像上にはその姿は見られません。撮影はスカイメモ同架の85mm f/2.8レンズです。なおこの星は、4月2日、8日、9日に撮影した捜索画像上にも見られません」という報告と出現位置(赤経α17h14m42s.2、赤緯δ-27°43'51″)と画像がつけられていました。『小嶋さんの画像はいつもよく写っているな。嬬恋村は空が良いんだろうな……』と思ってその画像を見ました。

続く西村氏の報告は「彗星捜索中に新天体を見つけました。発見時刻は、4月12日02時55分、200mm f/3.2レンズ使用の2連カメラの4枚の画像に写っています。発見光度は10.7等でした。捜索画像は13秒露光、極限等級は13等級です。なお、前日4月11日01時47分に撮影の捜索画像には写っていません」という発見報告と出現位置(赤経α17h14m42s.55、赤緯δ-29°43'48″.1)でした。両氏の報告とも「前日にはこの星が見られない。発見位置に変光星もなく、DSS(Digital Sky Servey)の画像にも星が見られない」と記載されていました。ということは、前日から星は急増光したことになります。

両者の位置を比べて『うん。同じ星だ……』と思いました。しかし『えっ、待てよ。何かが違う……』と両氏の位置をよく比べると、赤緯の度の単位が小嶋氏が-27°、西村氏が-29°です。あとはよく合っていますので、どちらかのミスです。画像を見ると西村氏の値が正しいようです。そこで05時02分に小嶋氏にこのことを伝えました。05時10分には西村氏から電話がありました。このとき、小嶋氏からも連絡があって同じ星を見つけていることを伝えました。『前日には見えていない状態から急増光したのなら、この星は新星だろうなぁ……』と期待を持ってダン(グリーン)への発見報告を仕上げました。なお、発見時刻は西村氏の方が早く、西村氏を第1発見者、小嶋氏を第2発見者として05時47分にダンに送付しました。

すると、その6分後の05時53分に水戸の櫻井幸夫氏から「4月12日04時43分に180mmレンズで15秒露光で撮影した捜索画像上に新星状天体を見つけました。発見光度は10.6等です。極限等級が12等級の2枚の画像に写っています。前日の4月11日02時29分に撮影した2枚の画像(極限等級12等級)では、この星は確認できません。変光星・小惑星についてはチェックしましたが、該当するものはありません」というメイルが届きます。もちろん、出現位置は小嶋氏と西村氏とほぼ同じで、天体は同じものでした。メイル到着直後に櫻井氏より電話が入ります。『はい。小嶋さんと西村さんから同じ星の発見があって、たった今、中央局に送ったところです。独立発見として報告しておきます』と答えておきました。しかし今度は、ふと櫻井氏の発見時刻がおかしいことに気づきました。『水戸では、03時40分頃に薄明開始です。空が明るいのではないか』と思っていると、05時57分に氏から「すみません。発見時刻は03時43分です」という電話があります。そこで報告を正しい時刻に直して『これで、この星の発見は3人の独立発見になった。これは新星に違いない……』と思いながら、櫻井氏の発見をダンに送付しました。06時09分のことです。

その夜が明けた06時47分には、小嶋氏より「中央局(CBAT)への報告ありがとうございまいた。NOVAと確認されたわけではありませんが、尊敬するお二人も見つけていらっしゃるので安心……であります」というメイルが届きます。さらに07時55分には櫻井氏から「先ほどはありがとうございました。いつものことながら、新天体候補をみつけるとつい冷静さを失ってしまい報告に不備が出てしまいます。申し訳ありません。遅くなりましたが発見画像を添付いたします」というメイルも届きます。さらに山形の板垣公一氏から10時05分に「おはようございます。へびつかい座の新星状天体の件ですが、今朝、180mmレンズで見つけていました。そのあと50cmで確認しました。しかし、変光星と判断して“没”にしました。位置はα17h14m42s.65、δ-29°43'44″.1で、光度は10.8等でした」というメイルが届きます。『あぁ……やっぱり板垣さんだ。きちっと見つけてチェックしている。しかし、板垣さんが没にしたということは新星じゃないのかな』と思って氏の報告を読み、とにかく『大きな望遠鏡で位置が得られた』と13時27分にダンに氏の観測を送付しました。それを見た板垣氏から15時46分に「バックに青い星があるため、矮新星なのかなと思っていました」という連絡がありました。

その夜になって、4月13日01時09分に香取の野口敏秀氏から「西村さん、小嶋さん、櫻井さんが発見した新星状天体の観測です。23cm望遠鏡で4月13日00時41分に観測しました。光度は10.9等でした」という観測報告があります。氏の観測は、その日の朝06時08分にダンに送付しておきました。さらに大崎の遊佐徹氏は、米国メイヒル近郊にある50cm望遠鏡で分光観測を行い、4月13日18時09分のV光度を10.5等と報告しています。

それから3日ほどが経過した4月16日夜になって、西村氏より「ちょっと体調を崩しましたのでお礼が遅くなり申し訳ありませんでした。へびつかい座の新星らしき天体について、さっそく処理いただきありがとうございました。どうもまた矮新星のようですが、新しい天体であることが判明し、変光星観測者が調査しているようで、見つけた一人として満足感を味わっています。このような幸せを味わうことができるのも、中野さんが献身的にアマチュアを可愛がっていただいているお陰で、本当に感謝をしております。年賀状で歳をとったと書かれていましたが、いつまでもお元気で、私たちを導いていただきますようお願い申し上げます」という連絡が届きました。氏のメイルによると、どうもこの星も、また矮新星であったようです。皆さん、残念でしたね。

25D/ネウイミン第2周期彗星

過去に1916年と1927年に2回の出現を記録しているネウイミン第2周期彗星ですが、その後の回帰は見失われてしまいました。しかしマースデン博士は、彗星が1970/71年に好条件の回帰(近日点通過1971年1月7日)となることを見越して過去の観測を再調査し、この彗星の再改良した軌道を1969年に英国王立天文協会(RAS)の季刊紙(QJ)へ公表しています。そして博士は、その軌道からの予報を英国天文協会のハンドブックHBAA 1970に掲載し、捜索を呼びかけました。その予報に沿って、日本でも高知の関勉氏、西尾の小島信久氏、清水の浦田武氏をはじめ多くの人たちが熱心に捜索されました。

このとき(1970/1971年の回帰時)にこの彗星を捜索していた小島氏は、1970年12月27日に予報位置近くに新彗星(1970 Y1)を発見しました。新彗星の軌道(近日点通過1970年10月7日)は、この彗星(25D)とよく似ていましたが、マースデン博士の軌道解析の結果、25Dの近日点通過は予報より1か月以上はずれないことが指摘され、別の新彗星であることが判明しました。小島氏の発見した新彗星は70P/Kojimaとして、その後2014年まで7回の出現を記録しています。つまり「新彗星は別の彗星」という博士のこのときの判断は正しかったことになります。

さて、この彗星(25D)は今年2014年3月13日に回帰し、条件の良い回帰となりました。2月下旬に地球に0.34auまで接近し、ほぼ衝近くを動き、その光度も明るくなることが期待されました。もちろん100年近くも見失われている彗星のため、光度予報より減光していることも考えられます。ただ、彗星の運動に非重力効果の影響を考慮した場合、近日点通過は2013年12月になるために広い範囲の捜索が必要でした。この春2月から5月にかけて、再発見の好機は続いていました。しかし、栗原の高橋俊幸氏は2月21日夕方に近日点通過の補正量にして、ΔT=0日から−8日まで、2月26日にΔT=0日から+8日まで、捜索帯にして、それぞれ22°の広い範囲を探しましたが、この中に16等級(極限等級18.5等級)より明るい彗星状天体は見つかりませんでした。

4月15日になって、大泉の小林隆男氏からこの彗星の新しい軌道解析が届きます。そこには「25Dについては私も前から関心がありますので、その軌道を調べてみました。その結果、重力解では、今回の近日点通過日は2014年3月13.08日となります。非重力効果を考慮すると、2013年11月07.8日となります(A1=+3.72、A2=−1.0676)。以上の結果は、天文ガイド3月号の中野さんの記事とほぼ整合します。ただし、この彗星は2回の出現しか記録がありません。そのため、非重力係数の決定は困難です。特に、A2には相当の誤差があると推察されます。それで、A2を適当に変化させて、どの範囲内であれば2回の出現を満足する軌道が得られるか調べて見ました。A1は0.0と仮定し、A2を固定して軌道改良を試みました。すると、A2が「+3.0〜−3.0」の範囲であれば、満足な軌道が得られることがわかりました。以上より、私の結論は『2014年の近日点通過は3月13.08日が最も確からしいが、2013年7月〜2016年2月に近日点を通過する可能性がある』となります。最後に、A2を実験的に変化させた軌道群から、既知の小惑星との同定を試みました。すると、A2=−0.8の軌道から同定候補として小惑星2012 TD119がピックアップされました。ただ、連結された軌道に系統的な残差が見られますので、この同定は成立しない……とは思います」と報告されていました。

いずれにしろ、この彗星の捜索は、過去の70P/小島彗星の発見時にも、関勉氏や小島氏によって、かなりの領域が写真捜索されました。おそらく、彗星の回帰予報がこれよりずれているか、あるいは、すでに彗星が消滅してしまったのかもしれません。ただ、フセクスビャスキは、氏の解析の中で「1927年の出現について、ネウイミンは、彗星は急激に明るくなって、急激に暗くなったと報告しているが、他の観測者を含め、彗星は、拡散し減光したとは報告していない」と記述しています。そのため、そういう性格の彗星で、まだ生き残っているかもしれません。そうあって欲しいものです。

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