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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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109(2014年3〜4月)

2014年9月5日発売「星ナビ」2014年10月号に掲載

オリオン座の矮新星

先月号の最後で紹介した266P/クリステンセン彗星の同定調査に関して)ドイツのマイク(メイヤー)に『266Pの同定を調べてくれてありがとう』とお礼のメイルを送った3月5日は、昼間は小雨が降っていましたが、夕方には晴れてきました。そのかわり急に寒くなり、夜は「ちらほら」と雪が舞っていました。その夜の23時29分に掛川の西村栄男氏より「新天体でしょうか」というサブジェクトのメイルが届きます。そこには「掛川市岩井寺で撮影した捜索画像上に新星状天体(PN)を発見しました。お調べいただきたくご連絡いたします。ただ、今回も「矮新星」かもしれません。発見時刻は2013年3月5日20時24分で、発見光度は13.5等です。二連カメラで同時に撮られた他の3画像、計4枚の画像に写っています。機材は200mm f/3.2望遠レンズ+デジタルカメラで、10秒露光です。同じ機材で1月22日、26日、2月2日、11日に撮られた極限等級が14.5等級の過去の捜索画像上には、その姿は見られません。なお、デジタル・スカイ・サーベイ(DSS)の画像上には19等星くらいの恒星があります」という発見報告と発見画像が届きます。

ところで、発見された天体は、どちらかといえば暗いありふれた星です。しかしどんなにありふれた天体でも、発見者にとって新天体を発見したという感動は大きいようです。『あれ……発見年が2013年になっている』ことに気づきます。さらに報告された発見位置を見ると『赤経が16時……、えぇ……この位置、夕方に見えるかな……』と思って発見報告を見ました。西村氏からは、23時33分に他のカメラの画像も届きます。そして、23時41分に「申し訳ありません。出現位置は赤経16時ではなく06時です」という訂正があります。このように熟練した発見者である西村氏でも、新天体発見という衝撃は大変大きなものなのでしょう。それなのに氏から23時43分に電話があった際『暗い天体ですね。あまり興味がないね……』と言ってしまいました。申し訳ないことです。

西村氏の発見は、3月6日00時10分にダン(グリーン)に報告しました。それを見た西村氏からは、05時39分に「さっそく処理いただきありがとうございました。前回と違い、すでに確認が行われたようです。2日前には爆発していなかったということです。中野さんのお力で研究者の役に立てたかと思います。今回も本当にありがとうございました。いつの日か、新彗星を報告できたらと思います……」という連絡が届いていました。氏には、12時41分に『はい。よかったですね。発見年が2013年になっているのでどうしようかと思いましたが、こちらの独断で2014年にしました。あとでの位置の訂正といい、熟練した発見者といえども、やっぱり新天体の発見は衝撃が大きいものですね』という返信を送っておきました。

その夜(3月6日)のことです。山形の板垣公一氏から20時22分に「栃木にいます。50cm f/6.8望遠鏡でのPNの観測です。3月6日18時41分に12.5等と明るくなっています。新星か……。青いですね」という確認報告があります。また、香取の野口敏秀氏からも21時19分に「3月6日20時19分に23cm f/6.3望遠鏡で西村さん発見のPNを観測しました。光度は12.8等でした。1990年に撮影されたDSS(POSS2/UKSTU Red)で確認すると、近い場所に暗い18.6等の恒星がありました。DSSの極限等級は約20等級です」という観測も報告されます。これらの観測は、21時53分にダンに送っておきました。さらに深夜を過ぎた3月7日01時35分には、山口の吉本勝己氏からも「西村さん発見のPNを撮影しました。いつもの16.0cm望遠鏡では建物の影になってしまい、デジカメ(180mm f/2.8レンズ)での撮影となりました。そのため、正確な光度ではないかもしれませんが報告いたします。カラー画像ではこの星は青く写っています。光度は3月6日20時49分に12.6等です。光度測光は、デジカメのカラー画像をRGB分解しGプレーン画像のみで測光しましたので、V光度に近い値になっていると思います。なお、昨晩はC/2013 V2、209P、124Pを撮影しました。これらは光度を測り次第に報告します」という観測が報告されました。氏の観測は、03時27分にダンに送付しておきました。

なお、この星は3月8日03時頃に欧州の観測者によってスペクトル確認が行われ、矮新星のバーストであったことが報告されています。

超新星 2014ai in NGC 2832の発見

3月下旬、低気圧が急速に発達し、北海道や東北地方では強風と大雪となりました。しかし太平洋側は3月22日以後は数日間晴天が続いていました。その頃、山形の自宅にいた板垣公一氏から3月23日20時10分に1通のメイルが突然届きます。そこには「こんばんは。先ほど、超新星状天体(PSN)を未確認天体確認ページ(TOCP)に記載しました。のちほど報告しますのでよろしくお願いします」という内容でした。

板垣氏から発見報告がまだ届かない22時51分に香取の野口敏秀氏から「TOCPにある板垣さん発見のPSNを3月23日22時20分に23cm望遠鏡で確認しました。光度は17.1等でした」という確認観測が早々と届きます。『あれ〜、板垣さんから発見報告がまだ来ないよ〜』と思いながら、板垣氏からの報告を待ちました。発見報告は、それから約20分後の23時13分に届きます。そこには「NGC 2832に超新星らしき天体がありましたのでTOCPに記載しました。この星は、栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2014年3月23日19時46分にやまねこ座にある系外銀河NGC 2832を撮影した捜索画像上に発見したものです。発見光度は16.8等でした。この超新星は、3月16日に行った捜索時にはまだ出現していません。なお超新星は、銀河核から西に33"、北に50"離れた位置に出現しています」と書かれてありました。発見画像では、超新星は大きな楕円銀河の核からだいぶ離れた位置に小さく輝いていました。さっそく、発見報告を作成して、野口氏の確認観測とともにこの発見をダンに送付しました。3月24日00時01分のことです。それを見た板垣氏からは00時24分に内容を確認したというメイルが届きます。

超新星 2014aj in UGC 3252の発見

それから1日が経過した3月24日23時29分に、香取の野口敏秀氏から1通のメイルが突然届きます。そこには「TOCPにある板垣さん発見のPSNの観測報告をいたします。今回は、出現位置が銀河の腕と重なっていたため、私の機材では力不足でなかなか中心が捕捉できず、測定に時間がかかってしまいました。23cm望遠鏡による21時37分の確認では光度は17.5等でした」と報告されていました。『あれ〜、板垣さんからの通知がなかった』と思いながら、氏からの報告を待ちました。発見報告は、それから約25分後の23時53分に届きます。そこには「山形の50cm f/6.0反射望遠鏡+CCDを使用して、2014年3月24日20時09分にきりん座にある系外銀河UGC 3252を撮影した捜索画像上に17.3等の超新星状天体を発見しました。この超新星は、3月3日に栃木の高根沢観測所にある50cm望遠鏡で行った捜索時には、まだ出現していません。超新星は、銀河核から西に8"、北に12"離れた位置に出現しています」という発見報告がありました。野口氏の言うとおり、超新星は小さな渦巻銀河にある腕の中に小さな輝きを放っていました。この発見は、3月25日00時21分にダンに送付しました。それを見た板垣氏からは、00時32分に内容を確認したというメイルが届いていました。

超新星 2014ai in NGC 2832の公表

板垣氏がUGC 3252に17等級の超新星を発見した同じ夜、3月25日03時44分に到着のCBET 3838でNGC 2832に出現した超新星が公表されます。そこには、この超新星は3月21日14時頃にハワイ・マウナケアにあるKeck II望遠鏡で発見されていたことが公表されていました。そのため、板垣氏の発見は独立発見となりました。なお、Keck II望遠鏡によるスペクトル確認では、極大光度近くのIa型とのことでした。同号には、この超新星の出現は上記以外の国内外の観測者によって16等級で確認されたことも公表されていました。その日の午後14時39分に新天体発見情報No.212を発行し、板垣氏の発見を報道各社に伝えました。なお、3月27日11時56分になって、大崎の遊佐徹氏からも、3月24日14時13分にメイヒル近郊にある25cm f/3.4望遠鏡でこの超新星をとらえ、このとき、超新星は16.5等であったことが伝えられてきました。

カテリナ・PANSTARRS周期彗星の同定(2014 D2=2005 EL284=5N55702)

3月末になって、このひと月の間に観測が増えた彗星の軌道改良を行いました。すべての改良が終了すると、過去に発見された小惑星と一夜の天体の観測の中に同じ天体が発見されていなかったかという同定作業を行います。新たに改良された27個の彗星の軌道から約1050万個のこれらの観測を調べると、この彗星には、2005年に発見されていた小惑星2005 EL284と、一夜のみ観測された天体5N55702がその同定候補として見つかります。

この彗星は、ハワイのハレアカラで行われているPan-STARRSサーベイで2014年2月27日にコップ座を撮影した捜索画像上に18等級の新彗星として発見されたものです。発見時、西北西に短い尾が見られました。3月7日にマウナケアの3.6m望遠鏡で行われた確認観測では、集光した恒星状の核と西北西に30"の尾が広がっていました。マウナケアの観測から過去の予報位置を推算し、Pan-STARRSサーベイによって撮影されていた過去の捜索画像上を調べた結果、発見約1年以上も前の2013年1月21日、そして、12月4日、2014年1月17日、2月13日、2月21日に撮影されていた捜索画像上に発見前の彗星の観測が見つかりました。さらに、小惑星センターのウィリアムズは、カテリナ・スカイサーベイから報告されていた発見同夜(2月27日)の天体がこの彗星と同じであることを見つけました。東京の佐藤英貴氏は、3月9日にスペインにある32cm望遠鏡でこの彗星を観測し、その光度を17.7等と観測しています。このとき、彗星には強く集光した6"のコマと、西北西に10"ほどの尾らしきものが見られました。さらに上尾の門田健一氏は3月10日に17.6等、平塚の杉山行浩氏は3月21日に18.0等と観測しています。なお、門田氏はさらに3月23日に17.8等、4月6日に17.9等と観測しました。彗星は、周期が9年ほどの短周期彗星でした。

先月号にも書きましたが、過去の観測の中から彗星と同定可能な天体が見つかると、毎回わくわくしながら軌道改良を行います。その結果、この同定はOKで『万歳』でした。過去に発見されていた小惑星2005 EL284は、2005年にLONEOSサーベイで3月11日に発見された17等級の一夜の天体、LINEARサーベイで3月17日に発見された18等級の一夜の天体を組み合せ、新しい仮符号が与えられていた小惑星でした。同定では、さらに4か月後の7月17日にサイデング・スプリングで発見されていた18等級の一夜の天体(5N55702)も、この小惑星に属する観測であったことが判明したことになります。観測期間が1年を超える軌道がほぼ確定した新彗星から、新たな過去の回帰の観測が見つかるのはめずらしいことです。これらの2005年の観測は、同定を見つけた時点での2014年の最新の軌道から+0゚.03のずれしかなく、これは近日点通過時の補正値にしてΔT=+0.13日と小さなものでした。なお、前回の近日点通過は2006年1月2日で、彗星は、近日点通過約1年前に18等級と比較的明るい光度でとらえられていたことになります。

この結果はすぐダンに連絡しました。3月29日23時33分のことです。また、計算された27個の彗星の軌道は、23時40分にEMESで仲間に送付しました。ところが送られた結果を見直すと彗星名に1つミスがありました。『まぁ、いいだろう。中は誰も見ないから……』とそのままにしました。すると、その2時間足らず後、めずらしくアーマ天文台のディビッド(アシャー)からメイルがあります。その中で「Syuichi、C/2012 S1と表記した彗星はC/2010 S1だろう」という彗星名の間違いを指摘していました。『ありゃ……、見ている人もいるのか』とちょっと反省しました。その夜が明けた07時39分にダンは、この同定をCBET 3839で公表してくれました。すばやく反応してくれたダンには感謝しなければなりません。

もう一人、見てくれていた人がいました。東京の古在由秀先生です。先生からは、08時51分に「今朝、CBET 3839を見て、彗星と小惑星のidentificationをやられたことを知りました。やはり中野さんはすごいですね。お祝いというのは大げさですが感想です」というありがたいお言葉をいただきました。そこで古在先生には、11時47分に『ありがとうございます。ただ、これは難しい同定ではありません……。お目にお止めいただきありがとうございました』というお礼状を送っておきました。

超新星 2014aj in UGC 3252の公表

3月31日20時38分になって、大崎の遊佐徹氏からも「鈴木・加藤両氏とともに3月28日22時12分に30cm望遠鏡でこの超新星を17.5等と観測した」ことが伝えられます。すると、野口氏から「立派に後継者が育っていますね。分光もされたようなのでCBETが待ち遠しいです。そういえば、私が彗星に興味を持ち、天文ガイドに出ていた彗星捜索者に手紙を出したのが中学生の時でした。あれから40年以上。あと数年で定年です。あっ、手紙を出した相手は板垣さんです……」というメイルが転送されて届きます。それを見た板垣氏からは、21時42分に「あっ……、覚えています。若い時はとても筆不精な私でした。失礼な対応をしたのではないかと心配になりました。改めて新天体発見の幸運をお祈りいたします(ひや汗…)」という返信が送られていました。この発見は、4月5日15時29分に到着のCBET 3844で公表されます。それによると、この超新星は3月25日06時頃にアジアゴにある1.82m望遠鏡でスペクトル確認が行われ、極大光度が約1週間前にあるIa型らしいとのことでした。また、上記以外の国外の観測者によっても17等級で確認されました。その日夕方、17時01分には新天体発見情報No.213を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。

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