「はやぶさ」が隕石と小惑星を結びつけた

【2006年9月11日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュースBrown University

隕石が小惑星に由来することは、ほとんど当たり前とされてきた。それなのに、もっともありふれた隕石と、もっともありふれた小惑星の光学的性質が一致しないことが謎であった。この謎に、小惑星「イトカワ」を観測した探査機「はやぶさ」のデータが決着をつけるかもしれない。9月7日発行の科学雑誌「ネイチャー」に発表された論文によれば、小惑星の表面は「日焼け」によって性質が変化してしまうというのだ。


(多色カメラAMICAによる小惑星イトカワの画像)

「はやぶさ」搭載の多色カメラAMICAによる小惑星イトカワの画像(四角は「はやぶさ」搭載の近赤外分光計(NIRS)の観測点の大きさで、矢印はその動き。NIRSは、相模原(イトカワ上の地名)の淵の暗い領域から筑波(イトカワ上の地名)の西の明るい領域までスキャンしている)。クリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

空気を持たず、直接宇宙空間に地表をさらしている天体は、「日焼け」する。より正確に言えば、太陽風や微少隕石が衝突することで表面物質が蒸発し、再び固まることで色や明るさが異なる薄い膜が表面に形成される。これは「宇宙風化」と呼ばれる現象だ。当然、地球の月も日焼けしている。また、大型の小惑星でも日焼けは見られる。一方で、イトカワ(直径550メートル)のように小型の小惑星は重力が弱いために、日焼けした表面物質は皮がめくれるかのごとくはがれ落ちると思われていた。いずれにせよ、小型小惑星の表面における宇宙風化は確かめられた例がない。

さて、隕石の種類でもっとも多いのは「普通コンドライト」と呼ばれるタイプだ。一方、小惑星帯の内側でもっとも多いのは「S型小惑星」だ。両者の起源は同じだと考えるのが自然だが、普通コンドライトの反射スペクトルよりも、観測されるS型小惑星の方が赤い。この違いが、長い間謎であった。

すでに、イトカワの成分自体は「普通コンドライト」のうち「LL型」と呼ばれるものに近いことがわかっていた。また、宇宙風化の証拠は過去の分析結果から浮かび上がっていた(参照:「はやぶさ」の成果が科学雑誌「サイエンス」の特集に!)。イトカワの表面には、明るくて新鮮な表面と暗い部分が存在していたのだ。そこで米・ブラウン大の廣井孝弘氏と宇宙科学研究本部(JAXA)の安部正真氏をはじめとする日米共同のチームが、「はやぶさ」のデータのさらなる解析に取り組んだ。

イトカワの表面上のさまざまな地点でスペクトルを分析した結果、明るいところほど青っぽい色をしていて、普通コンドライト隕石に近い成分であることが判明した。どうやら、これこそが新鮮なS型小惑星、および普通コンドライト隕石に共通の「素顔」のようだ。小さなS型小惑星も「日焼け」によって素顔が変わってしまい、そう簡単には「化けの皮をはがさない」ことがわかってきた。

さらに、研究チームは地上の隕石も綿密に調査した。基本的に、隕石からは宇宙風化を経なかったサンプルが得られるはずだが、宇宙風化よりはるかに強烈な地球上の風化のために、数多くの隕石は台無しになっていた。だが、そんな中イラクで見つかったLL型普通コンドライト隕石が、はやぶさの新鮮な表面とひじょうに近い性質を示した。

今回の結果から、イトカワはLL型普通コンドライト隕石の母天体の1つと言えそうだ。しかし、3種類ある普通コンドライト隕石の中でも、LL型はもっとも少ないタイプだ。LL型よりも多く存在するH型・L型の普通コンドライト隕石についても母天体が、それもイトカワのような地球近傍小惑星の中に数多く存在するかもしれない。

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