ブラックホールの過去を物語る、いて座A*ガス円盤の化学組成

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野辺山電波望遠鏡の観測から、天の川銀河の中心核「いて座A*」のガス円盤の化学組成が明らかになった。高エネルギー放射により複雑な分子が存在できない環境にあったことがうかがえ、中心部にある巨大ブラックホールの過去の活動が深く関わっている可能性が考えられる。


【2014年9月26日 国立天文台野辺山

私たちの太陽系がある天の川銀河の中心核「いて座A*」には、太陽の400万倍もの重さの巨大ブラックホールがある。他の多くの銀河にもその中心にブラックホールがひそんでいると考えられるが、強い重力で周囲の物質を取り込む反動でX線などを強く放射する活動的なものと、静穏で暗いものとがある。天の川銀河の中心ブラックホールは、現在は大人しいものの、数百年前には今の数百万倍も明るく活発な天体だった可能性が最近の研究で指摘されている。

慶應義塾大学大学院理工学研究科の竹川俊也さんらは、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡(長野県)を用いて、天の川銀河中心部の巨大ブラックホールを取り囲むガスリング「核周円盤」を観測し、その化学組成を初めて明らかにした。

天の川銀河の中心核「いて座A*」の構造
天の川銀河の中心核「いて座A*」の構造。巨大ブラックホールの周囲には電離ガスの渦巻構造(紫)、核周円盤(オレンジ)、さらに巨大分子雲(赤)が取り巻いている(提供:NASA)

観測の結果、すぐ外側の巨大分子雲に比べて、核周円盤には簡単な構造の分子が多く含まれることがわかった。複雑な大型分子は一般的に、紫外線やX線などの強い放射により破壊されやすいと考えられることから、過去において円盤内部は大きな分子が存在できない過酷な環境であったことがうかがえる。このことは、巨大ブラックホールが過去にどれだけ活発だったかを物語る可能性がある。

今回の観測データは、天の川銀河中心部とほかの銀河のそれを比較研究するうえで大いに活用されると期待される。

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