どうなる、しし群? 流星研究者ボバイヨン氏に聞く(インタビュー後半)

【2009年11月4日 アストロアーツ】

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ジェレミー・ボバイヨン氏へのインタビュー内容

世界中の専門家と交流しながら実績を積み、流星群予報のエキスパートとして定評を得たボバイヨン氏は、国立天文台の客員研究員として1年間、断続的ながら日本に滞在している。その理由は何だったのだろうか。

ボバイヨン氏

− 現在、国立天文台の渡部潤一氏や佐藤幹哉氏らと共同で研究されていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

何年も前に渡部さんを含め数人の日本人とヨーロッパで行われた国際会議で知り合いました。私たちはお互いの取り組みに興味があり、3年前から訪日を希望していたのが今やっと実現したところです。

日本で研究することには2つの点で意義があります。

研究面では、渡部先生が開発した(流星ダストの)計算手法がたいへん興味深いのです。彼は流星ダストが放出されるときの彗星活動(表面が蒸発する勢いなど)を計算に含めていて、私はまだ含めていません。

そして、日本のアマチュア天文家たちです。とくにしし座流星群が活発だったころ、観測に取り組んでいる方の多さと真剣さがいつも印象的でした。彼らが使っているカメラや電波受信装置などの機材も、プロである私が、観測に興味を持つきっかけとなりました。

− 電波による観測も実施しているようですね。

私たち(パリ天文台)はフランス北部で、普通は届かないスペイン南部やモロッコからの電波に周波数を合わせています。流星が流れると電波がはね返ってくるので、計測できるんです。実は、これは大勢の日本人が取り組んでいることでして、流星について研究を始めたときには日本人の活躍がたいへん印象的でした。パリ天文台では流星電波観測のノウハウを身につけるとともに、実施観測と電波観測を結びつけることを目標としています。

− では日本の観測者との連携も考えているのですか?

もちろんです! 連絡を取りたいのですが、日本でどなたが取り組んでいるのか正確に把握していないもので……どなたか、メールで私に連絡をください!


同氏のウェブサイト(英語)に連絡先が記されているので、「われこそは」という方は声をかけてみてはいかがだろう。

ここで、ボバイヨン氏の最新の予想について触れておこう。昨年末の時点では「ZHR 500個」と発表していたが、現在ではこれを「200個」と下方修正している。今年の出現を引き起こすのは、テンペル・タットル彗星が1466年と1533年にそれぞれ放出した流星ダストだ。ボバイヨン氏によれば、400年以上前の流星ダストを計算するとどうしても誤差が大きくなるという。500個から200個への修正は、2008年の出現状況を考慮した結果だ。

さらに重要なのは、出現数がピークに達する時刻(極大時刻)だ。ボバイヨン氏の予想では日本時間11月18日午前6時半ごろで、これは以前から大きく変わっていない。同日、東京での日の出は午前6時18分、薄明開始は午前5時ごろ。影響は避けられそうにない。


− 一方で、最近の日本ではマスメディアが流星群について過熱気味に報道する傾向があります。しし座流星群についても、いまだに「1時間に500個見える」というあおり文句が流布しているようですがいかが思われますか。

流星が広く関心を集めていると聞けて嬉しいです。しかしまあ、日本のメディアもフランスと似ているようで……ほとんど科学的な正しさに気をつかわないのですね! 専門家は複雑な物事に慣れてしまっているだけに、一般の方が本当に基礎的な知識を必要としていることを忘れてしまいがちです。

では、これから流星群を見たいという方に2つアドバイスをしましょう。

まず、研究者が発表する極大時刻や出現数は変わりうるので、観測に出かける前に研究者のウェブサイトなどで確認することをおすすめします。流星群の予想は比較的新しい研究分野なので、手法やデータが変わりやすいのです。ピーク時間は比較的よく当たりますが、出現数を計算するのは複雑で難しいことです。

そして、発表された数値をうのみにしないでください。あなたの視力や注意力に加え、向いている方向や視界の広さ、さらに光害や天気などの環境がマイナス要因として働きます。また、しし座流星群の極大前後1〜2時間を外すと、見られる数はぐんと減ります。日本では、極大時刻が日の出と重なってしまうと予想されるので、最高の条件で見るには西へ数千km動かなければなりません。一番条件が良いのはインドや中央アジアでしょう。

− では、あなたは今年のしし座流星群をどこで見ますか?

ネパールです! 1か月前から共同で研究しているPrakash Atreyaさんが、ちょうどネパール出身で、遠征の手配をしてくれています。

− ちなみに、2010年以降しし座流星群の活動はどうなるのでしょうか。

確かなのは、2032年に流星嵐が戻ってくることです。そして2033年、34年と続きます。今後数年間、2008年や2009年と同規模の出現があるかはわかりませんが、2001年のような出現は当分ありません。確実には言えませんが、2011年にも活動がありますね。今年のしし座流星群を見逃したからと言って、あまり気落ちする必要はないと思います。


ボバイヨン氏が言うように、流星が極大時刻前後のごく短い時間にしか増えないのだとすれば、日本で大出現を見るのは難しい。ただ、同氏が繰り返し指摘しているように、流星予報に「絶対」はない。11月17日から18日にかけては月明かりの影響を心配する必要がないので、実際の出現状況を自分の目で確かめてみてはいかがだろうか。

最後に、同氏が最後にくれたコメントを紹介しよう。

「どんな観測でも役に立ちますし、私たちの理論をより良くする助けとなります。でもひょっとすると、それより大事なのは、流星群がととても楽しくて美しいことかもしれません。たとえ流星群のサイエンスに興味がなくても、外に出て空を見上げることに意義があります」


(「星ナビ」12月号掲載「ボバイヨン博士の2009しし群予想」の画像)

「星ナビ」12月号掲載「ボバイヨン博士の2009しし群予想」より

月刊天文雑誌「星ナビ」12月号(11月5日発売)では、「ボバイヨン博士の2009しし群予想」を掲載します。しし座流星群に関する最新情報や同氏のアマチュアとしての活動、さらに日本の読者へのメッセージなどを紹介します。

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