彗星のサンプルから生命の素を発見

【2009年8月20日 JPL News Release

NASAの彗星探査機スターダストが2004年に採集したウィルド彗星のサンプルから、生命に欠かせない成分であるグリシンが発見された。中に含まれる炭素の同位体比率が地球の炭素と異なることも確認され、地球上の生命の起源を宇宙に求める説の裏付けとなりそうだ。


(彗星探査機スターダスト)

彗星探査機スターダスト(CG)。テニスラケット状のものがサンプル収集装置。クリックで拡大(提供:NASA/JPL)

(エアロゲルに付着した彗星の物質)

サンプル収集装置のエアロゲルに付着した彗星の物質。クリックで拡大(提供:NASA/JPL)

今回の発見について発表を行ったNASAゴダード宇宙センターのJamie Elsila博士は「グリシンは生命体がたんぱく質を作るのに必要なアミノ酸の一種で、アミノ酸が彗星から発見されるのはこれが初めてです。生命の材料の一部が宇宙で作られ、隕石や彗星の衝突により地球に運ばれたということの裏付けとなるでしょう」と話す。

アミノ酸が発見されたサンプルは、スターダストが2004年1月2日にウィルド彗星(81P/Wild)のコマに突入したときに、サンプル収集装置のエアロゲルに付着したガスやちりだ。2006年1月15日、そのサンプル収集装置を格納したカプセルが地球に投下・回収され、彗星の成り立ちや太陽系の歴史についての手がかりを得るために分析が行われてきた。

センター内研究所での初期の分析で、エアロゲルとそれを格子状にはさむアルミの両方からグリシンが検出されていたが、打ち上げ前の製造や取り扱いの過程でまぎれこんだ可能性もあった。だが今回行われた同位体分析()により、その可能性はなくなった。分析したサンプルに含まれるグリシンには、地上のものより高い割合で「炭素13」が含まれていることが新たにわかったのである。「スターダストが採集したグリシンの分子は、地球上の物質にはない同位体特性を持っている、つまり彗星からやってきたものと判明しました」(Elsila博士)

この発見に対し、スターダスト主任研究員で米・ワシントン大学のDonald E. Brownlee教授は「この発見は非常に意義深いことであり、地球外の原始的な物質に関する実験的研究の発展を示す成果といえます」とコメントしている。

注:同位体(アイソトープ)とは、陽子の数が等しいため同じ元素に分類されるが、中性子の数が違うことで質量が異なる原子のこと。たとえば、もっとも多い「炭素12」の原子核は6つの陽子と6つの中性子から成るのに対し、同位体の「炭素13」は中性子が1つ増え、質量もその分大きい。