2007年3月の星だより

【2007年3月1日 アストロアーツ】

21日は春分。暖かい冬だったとはいえ、夜の冷え込みがやわらぐのはうれしいことです。華やかな冬の星座も西へ傾き出しますが、それでも夜空は見どころ満載。昼の現象や探査機の動向からも目が離せません。そんな中から今月注目の現象や天文学の話題を紹介します。


メシエ天体を追って

(M45と月の接近)

3月23日薄明直後、東京から見たM45と月の接近。クリックで拡大(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

3月下旬は、筋金入りの天文愛好家にとって一大イベントを敢行するチャンスの季節でもあります。天空に100個以上散らばった「メシエ天体」を一晩で観測してしまう、その名も「メシエマラソン」です。ことばの響きだけでもすごそうですね。

メシエ天体というのは、18世紀にフランスの天文学者メシエが編さんした「メシエカタログ」に記載された天体のことです。明るい星雲や星団、銀河などがリストアップされていて、多くの天文ファンに親しまれています。メシエ天体は番号をつけて「M(メシエ)1」「M31」のように呼ばれるので、聞いたことがある方も多いことでしょう。

しかし、いくら明るいといっても、メシエが20年以上かけてリストアップした天体を一晩で見てしまうのは、並大抵のことではありません。3月下旬がメシエマラソンに向いているのは、ちょうど付近にメシエ天体がなくて、あまり邪魔にならない場所に太陽があるからです。もちろん、それでも見づらいメシエ天体はいくつかありますし、そうでなくても100個以上の天体を探すのは大変です。

天体といえば星と月くらいしか見たことがない、という方は、この機会にメシエ天体を探してみてはいかがでしょうか。おっと、メシエマラソンを勧めているわけではありませんよ。マラソンコースの中にはいくつか絶景ポイントがあって、街明かりを避けて双眼鏡を用意すれば、誰でものんびりと楽しめるのです。

とりわけ有名なのが「M42」、別名「オリオン座大星雲」です。オリオン座と言えば、三ツ星とそれを囲む4つの星が作るつづみ型が有名な冬の星座。この時期は、夕方なら南西の空に傾き始めています。三ツ星のすぐ南には、3つの小さな星が南北にこぢんまりと並んでいて、その中にM42があります。姿をとらえるには、郊外に出れば何も必要ありませんし、双眼鏡があれば都会でも簡単。小型望遠鏡で観察すると、「星雲」という言葉が実感できます。その正体は、はるか遠くで輝くガスの集まりです。

もう1つ、「M45」を紹介しましょう。「すばる」や「プレアデス星団」という名前の方がなじみ深いかもしれません。M45は星団、つまり星の集まりです。M45はおうし座にあって、3月の宵なら西の方角にあります。星団の中でもとくに明るいので、晴れてさえいれば見つけるのはたやすいはずです。視力に自信がある方は、いくつ星を見つけられるか挑戦してみるのもいいでしょう。23日には、M45が月と並びます。その光景は、できれば双眼鏡で観察したいところです。

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部分月食と部分日食がセットで起こる

(月食と日食)

福岡市から見た部分月食(3月4日6時40分、沈む直前)と部分日食(3月19日11時28分、食の最大)の再現。(ステラナビゲータ Ver.8で作成)

太陽、地球、月がこの順番で一直線に並んで、満月に地球の影が映るのが月食です。太陽、月、地球の順に一直線に並んで、新月が太陽と重なるのが日食です。どちらも1年に2回ほど起きる現象で、1か月間に両方が起きることも珍しくありませんが、両方が日本で見られるのはまれなことです。

4日に部分月食が、19日には部分日食が見られますが、あいにくどちらも隠される割合があまり大きくありません。しかも、日本で見られる地域も部分的です。

月食は月にできた影を見ているので、同じ時間に世界中のどこから見ても欠け方は同じです。しかし、月と反対側の地域では、そもそも月が地平線の下に沈んでいるので見ることができません。4日の月食は日本時間の朝に起きる現象で、月が欠け始めたころに部分月食のまま沈んでしまいます。それが見られるのも中国地方から西だけで、それ以外の地域では「半影月食」しか起きません。「半影」は太陽からの光の一部だけが地球によってさえぎられている部分で、半影月食は写真に撮ればわかるものの、肉眼ではほとんど判別できません。

月が太陽の前を通過する日食は、見られる地域が限られます。月食と比べると、日食の方が頻繁に起きているのですが、日食の方が珍しいと感じるのはこのためです。19日の部分日食は、日本の半分(北西側)でしか見られませんが、それでも日本で見られる日食としては2004年10月14日以来2年5か月ぶりの現象です。太陽が欠ける割合はとても小さい一方、正午前後に起きるので太陽は見やすいはずです。できれば太陽を拡大して観察したいところですが、必ず正しいフィルターや専用の観測装置を準備して安全に楽しみましょう。

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冥王星探査機による木星の観測

木星の横を通り抜けるニューホライズンズの想像図

木星の横を通り抜けるニューホライズンズの想像図(提供:Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute (JHUAPL/SwRI))

研究や宇宙探査の分野で今月注目したいのは、冥王星―エッジワース・カイパーベルト探査機「ニューホライズンズ」の観測成果です。といっても、ニューホライズンズが観測するのは冥王星ではなくて木星です。

火星は数々の探査周回機や探査車によって常時モニターする体制ができていて、土星でも探査機カッシーニが活躍しています。しかし、その間に位置する木星には、2003年まで木星の周りで観測を続けていた探査機ガリレオ以降、ここ最近探査機が訪れていませんでした。ニューホライズンズは加速を得るために木星の横を通り抜けるだけですが、それだけでもコンパクトな機体に積まれた数々の観測装置がやることはたくさんありそうです。

木星といえば、昨年「中赤斑」が出現して話題になりました。もともと木星には、「大赤斑」と呼ばれる、地球の2倍もの直径と赤い色合いを持つ嵐の存在が知られています。大きさは半分ながら、それ以外の特徴がよく似た「中赤斑」の出現は、あらためて木星大気のメカニズムに対する関心を呼びました。

ニューホライズンズが木星に最接近したのは、2月の末です。今月は、観測成果が次々と発表されるに違いありません。

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