「地上の天気」と「宇宙の天気」の関係

【2006年9月22日 NASA Goddard Space Flight Center

「宇宙天気」とも呼ばれる、地球の超高層におけるプラズマのふるまいに、地上の天気が影響を与えていることが初めて明らかになった。日米の研究チームが地球観測衛星のデータから分析したところによれば、熱帯雨林などにおける雷雨が、間接的にプラズマの密度に影響を与えるようだ。


(地球観測衛星IMAGEが捉えた密度の濃いプラズマの帯)

地球観測衛星IMAGEが捉えた密度の濃いプラズマの帯。クリックで拡大(提供:NASA/University of California, Berkeley)

高度100キロメートル以上の大気はひじょうに希薄で、普通は「宇宙空間」に含まれる。しかし、たとえ薄くても、「大気圏」は高度500キロメートル以上のところまで広がっている。じゅうぶん高い領域は太陽から届くX線や紫外線によって大気中の原子や分子が電離されているため、「電離圏」と呼ばれる。電離された粒子であるプラズマのふるまいは、電磁気的作用によって地上における通信などに影響を及ぼすため、「宇宙天気」として専門家の関心の対象となっている。

アメリカのカリフォルニア大学や日本の独立行政法人情報通信研究機構などの研究者からなるチームは、NASAの地球観測衛星IMAGEを利用して宇宙天気を観測した。右の画像は、IMAGEが2002年に撮影したもので、地球の赤道付近に紫外線で輝く2つの平行な「帯」がとらえられている。

帯の正体は、高度400キロメートル付近に存在する電離圏のもっとも濃い部分、プラズマの密度が特に大きい場所だ。プラズマが濃いといっても、大気そのものはひじょうに希薄で、粒子どうしが衝突することはほとんどない。つまり、この高さでは「風」によって大気が動くことはない。

研究チームは、2つの帯の中に、特に濃い部分が4か所(4組)あること、さらに、その場所ではプラズマの濃度が平均の2倍であることを明らかにした。4か所とは、南米のアマゾン上空、アフリカのコンゴ盆地上空、インドネシア上空および太平洋上空だ。太平洋を除く3か所はいずれも熱帯雨林地帯。さらに詳しく調べるためにシミュレーションを行ったところ、驚くべき事に、熱帯雨林で起きる雷雨こそが400キロメートル上空のプラズマに影響していることがわかったのである。

雷雨が起きている高度15キロメートルほどの対流圏に比べ、プラズマの帯が存在する領域の大気密度は、その100億分の1しかない。低空でいくら風が吹こうとも、超高層で風が伝わることはできない以上、そこのプラズマに変化が起きるとは考えられない。しかし、「風が吹けば桶屋が儲かる」のと同じような関連性が、そこにはあったのだ。

そもそも高度400キロメートルの赤道付近に濃いプラズマの帯があるのも、下層の大気のしわざだ。電離圏の中で比較的低い高度(100から120キロメートル)にある「E層」は、比較的気圧が大きい。そして、ここにも弱いながらプラズマが含まれる。風が吹くと、プラズマも動く。プラズマが地球の磁場を横切ることで電場が生まれ、この電場がさらに上層のプラズマを帯状に集中させているのだ。

さて、地上の雷雨によって、上空では大気のゆらぎが発生する。このゆらぎがE層のプラズマを動かし、それによって変化した電場が、高度400キロメートルでプラズマの集中を引き起こした、というわけだ。なお、太平洋上空でプラズマが集中しているのは、下で雷雨が発生しているからではなく、他のところで起きた変化が伝わったためと研究チームは説明している。

今回発表された研究から「宇宙天気予報」には、地球の天気も重要な要素だということが初めて判明したが、今後は季節変動、ハリケーンなどの現象がどれだけ影響を与えるか調べることが課題であるという。

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