日本天文学会2006年春季年会でのトピックス
・初の天の川銀河の3次元地図
・「すざく」がとらえた炭素合成の現場
・望遠鏡再生プロジェクト

【2006年3月27日 アストロアーツ】

今日、3月27日から29日まで和歌山大学において「日本天文学会」(2006年春季年会)が開催される。会見では、電波データで描き出された初の天の川銀河の3次元地図を始め、「すざく」衛星が惑星状星雲にとらえた炭素合成の現場や、野辺山観測所で運用を終了していた太陽電波望遠鏡を水素原子輝線観測用の望遠鏡として改修・再生するプロジェクトなどについて発表が行われた。


<電波データで描き出された天の川銀河の3次元地図>

(銀河系を斜め上から見た姿) (銀河系の全ガス密度分布と渦巻き腕)

(上)銀河系を斜め上から見た姿(赤はHIガス、緑はH2ガスの分布)<画像作成:国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト林満研究員>、(下)銀河系の全ガス密度分布と渦巻き腕(図中の1から6の番号は(1) じょうぎ座腕、(2)たて座-みなみじゅうじ座腕、(3)いて座-りゅうこつ座腕、(4)オリオン座腕、(5)ペルセウス座腕、(6)外縁部腕(Outer arm))、1と6の腕は同じ腕とみなすことができる。(提供:国立天文台野辺山宇宙電波観測所 中西裕之氏による記者発表資料ページより)

国立天文台野辺山宇宙電波観測所の中西裕之氏(研究員)と東京大学天文学教育研究センターの祖父江義明氏(教授)の研究チームは、中性水素原子(HI)と一酸化炭素分子(CO)の電波スペクトルデータを解析することで、天の川銀河の姿を初めて3次元的に描きだすことに成功した。

3次元地図によって明らかになった天の川銀河は、中心部の密度が濃く、厚みが薄い分子ガスのディスクがある。それを水素原子ガスの巨大で歪んだディスクが包み込んでいる。銀河ディスクは軸対称な円盤ではなく、南半球に向かって勾玉のような形に吹き流されている。

天の川銀河の渦巻き腕ひとつひとつの形も明らかになった。これまで「じょうぎ座腕」と「外縁部腕」を同一の腕であると考えられてこなかったのだが、研究チームでは、この2つの腕が同一であると考えたほうが自然であるとという結論を導き出している。さらに、複数の腕が等角螺旋(対数螺旋)になっており、巻貝の貝の巻き方と同じようであることも明らかにした。

同研究チームでは3次元地図を描きだすために、中性水素原子が放出する電波から得られるHIガスとH2ガスの分布について、銀河系全体にわたり調べた。それにより、現在まで2次元的であった銀河系のガスを3次元的に捉えることに成功したのだ。HIガスの広がりは半径約20kpc(約6万5000光年)程度に達している。星の円盤の約1.5倍大きく広がっている。全てのガスの量に対してHIとH2ガスの割合ついて調べた結果、HIガスに飽和密度が存在し、飽和水蒸気圧と似たような振る舞いをしていることもわかっている。

同研究チームでは、今後、国立天文台4次元デジタル宇宙(4D2U)プロジェクトを通じて得られたデータを公開すると発表している。天の川銀河の3次元地図により、宇宙の姿を視覚的にとらえることが可能となる。その姿は教育用教材として、宇宙についての理解を深める大きな助けとなることが期待されている。


<「すざく」衛星がとらえた炭素合成の現場>

(ハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像(左)と「すざく」によるX線画像)

ハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像(左)と「すざく」によるX線画像(提供:東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻 牧島研究室記者発表ホームページより)

生命の源となる有機物を形づくる炭素は、太陽のような平凡な星の内部で合成され、宇宙空間に放出されたと考えられている。星の晩年には、放出物質は広がった「惑星状星雲」として輝くが、そのとき物質の一部は高温ガスとなってエックス線を放射することがある。

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 牧島研究室のチームでは、2005年7月10日に打ち上げられた、日本5番目のエックス線天文衛星「すざく」により、はくちょう座にある BD+30°3639 という惑星状星雲を観測を行った。そして、この天体が、炭素イオンの出す波長 3.4ナノメートルのエックス線を、強く放射していることを発見した。ガス中の炭素イオンの数は、酸素イオンの数の40倍にも達しており、星の内部で核融合によりへリウムから作られた炭素が、宇宙空間へと放出される現場をとらえた、貴重な観測結果となっている。


<電波望遠鏡プロジェクト 「8mパラボラアンテナ、新しい使命を帯びて宇宙の観測へ」>

(みさと天文台に展示中の電波望遠鏡(太陽観測用の姿)) (水素原子(HI)の出す21cm輝線の観測のしくみ)

(上)みさと天文台に展示中の電波望遠鏡(太陽観測用の姿)。(下)水素原子(HI)の出す21cm輝線の観測のしくみ。クリックで拡大(提供:ウェブサイト 電波望遠鏡プロジェクト「8mパラボラアンテナ、新しい使命を帯びて宇宙の観測へ」より)

欧米では多くの電波望遠鏡が HI(電離していない水素原子)観測で活躍しているが、日本では本格的な HI観測は行われてこなかった。しかし、すでに運用を終了している望遠鏡を改修することで、国内での継続的な HI 観測を可能とするプロジェクトが進行している。

これは、野辺山観測所で1994年に運用を終了し、1998年に和歌山県のみさと天文台に移設、展示されていた口径 8m の太陽電波望遠鏡を、波長 21cm の水素原子(HI エイチワン) 輝線観測用の望遠鏡として改修し、再生させるプロジェクトだ。

水素原子(HI)の出す21cm輝線は、レーザー光線のように決まった周波数で放射される。さらに、放射する水素原子が観測者に対して運動をしていると、その運動の速度に応じて観測される周波数が変化するが、電波観測機器は高い周波数分解能を持つので、水素分子の詳しい分布や運動の様子を調べることができる。

この水素原子の観測により、我々の銀河系の回転曲線(横軸に銀河中心からの半径をとり、縦軸に各半径に対応する回転速度をプロットした曲線)を測定できる。この回転曲線は、我々の銀河系における質量の分布と密接に関係している。また、観測される21cm輝線の強度が強い場所は、水素原子が多く存在する。強い放射の観測される場所は、銀河系の渦巻腕に対応すると考えられる。そこで、回転曲線を用いて、観測されたドップラー効果の大きさから、渦巻腕に対応する銀河系の円盤上での位置を決定する事ができるのだ。これにより、真横からしか観測できない我々の銀河の、真上から見たイメージを得ることが可能となるわけだ。

改修された電波望遠鏡は、日本の天文教育の現場に天の川銀河の姿などを生きた教材として提供するという新たな使命を帯びて再び観測に望むことになる。