マーズ・エクスプレスの観測期間が延長に、火星を広く深く調べる

【2005年10月4日 ESA News

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査衛星マーズ・エクスプレスの観測期間が約23ヶ月(火星で一年、つまり火星が太陽の周りを一周する時間)延長されることとなった。今年12月から始まる「延長戦」の間に、火星の広い範囲にわたる三次元マップ作成などの成果が期待されている。

(火星の北極付近の三次元画像) (MARSISレーダーのイメージ図)

(上)火星の北極付近の地形。崖の高さは2キロメートルで火山によるカルデラの縁の可能性もある(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum))、(下)火星の地下における水の存在を探るMARSISレーダーのイメージ図(提供:ESA)。ともにクリックで拡大。

2004年初めから火星観測を開始したマーズ・エクスプレスは、火星の気候や地質活動の跡、さらには氷や液体として存在する水の分布などを観測してきた。観測データからは、究極の目標の一つでもある火星生命探しにかかわるような重要な事実も明らかになっている。いくつか見てみよう。

火星といえば極付近に見られる氷(極冠)が有名だが、赤道付近でも氷河活動の跡が発見された。こうした氷河は、これまで考えられてきたよりも最近まで活動していたかもしれないとのことだ。一方で、鉱物学的分析からは、湖や海のような大量の水が火星表面にあった期間は、あまり長くないという結果が得られている。

マーズ・エクスプレスは火星大気中にメタンを検出した。他にも、ホルムアルデヒドが存在する可能性も示唆されている。これは、火星で現在火山活動が起きているか、さもなくば火星で現在(!)「生物」活動が行われていることを意味する。マーズ・エクスプレスが、生命の材料である水蒸気とメタンの分布を調べたところ、両方が存在する領域があったという事実も、生命探しに楽観的な見方を与えてくれる。

このほか、マーズ・エクスプレスは、初めて火星のオーロラをとらえている。また、高度10キロメートルから100キロメートルの範囲の大気圧が明らかとなり、大気上層部において大気が逃げ出すプロセスの研究が進められた。こうした結果は火星の天気や、気候の変化を知るのに役立つ。

マーズ・エクスプレスに残された仕事はまだ数多くある。中でも重要なのは、探査機に搭載されたレーダーMARSISを使用して地下に眠る液体や氷の水を探る計画だ。大気中の水蒸気や表面の様子と併せて、火星の全体像、とりわけ水がどのように存在しているかが見えてくるだろう。また、高解像度ステレオカメラによって、これまでなかった火星表面の三次元画像が多数得られたが、撮影されたのは火星表面の19パーセントにすぎない。こちらも今後の成果が期待されている。

もちろん、探査というのは新しい発見を追い求めるだけではない。マーズ・エクスプレスの最初の一火星年(約23ヶ月)では数々の新発見があったが、残りの一火星年で、これらの現象を再観測・再検証することによって、背景にある火星のメカニズムをより詳しく探ることも、重要な課題だ。


火星の地形: 火星には、かつて大量の水が流れてできたとしか考えられない地形が、数多く見つかっています。河川のあった跡、大洪水の跡、洪水で運ばれて丸みを帯びた岩の列や氷河の跡と思われる地形が今の火星には残されています。かつて豊富にあった水は、宇宙空間に逃げたか、永久凍土として地下に残っているかのどちらかだと考えられています。(太陽系がよくわかる「太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)


星ナビ11月号は火星大特集:「6万年ぶり」と騒がれた大接近から2年2か月、ふたたび火星接近がめぐってきます。この2年間に、多くの探査機・ローバーが、火星の新たな事実と謎をわれわれに提供してきました。「火星の水の行方は?」「複雑な地形はどうやってできたのか?」「探査機の画像で火星の素顔」に思いをはせ、表面模様と見え方を「火星カレンダーでチェック」したら、あとは望遠鏡を空へ向けるだけ。火星向けの「撮影機材の紹介や画像処理の方法」も完全網羅。ますます魅力的な惑星となった火星を、今宵、熱く見つめましょう。(天文雑誌「星ナビ」11月号は、カラー32ページ増の火星大接近大特集