惑星状星雲の構造形成の謎に迫る

【2002年9月30日 国立天文台天文ニュース(585)

植田稔也(うえたとしや、現ベルギー王立天文台研究員)さんとイリノイ大学アーバナ・シャンペイン校天文学部の研究グループは、すばる望遠鏡の近赤外線分光撮像装置 IRCS による観測から、年老いた星AFGL 618 の周りに「弾丸」や「角」に似た構造を発見しました。可視光よりも波長の長い近赤外線によって、これらの構造を捉えたのははじめてのことです。今回の高分解能で高感度な観測から、太陽のような質量を持った星が年老いていく複雑な過程について、新たな知見が得られたといえます。

(惑星状星雲の写真)

惑星状星雲 AFGL618の写真(提供:国立天文台、すばる望遠鏡)

惑星状星雲はバラエティーに富む色彩と構造で、プロ、アマチュアを問わず絶大な人気を誇っている「天体」です。学術的には19世紀末から、惑星状星雲の色彩はどのような物理現象で発生するのかが議論され、20世紀初頭には、それらは電離した星雲ガスの輝線によるものであることが判明し、天体現象を最新の原子核物理学を用いて解明していく天体物理学の誕生に大きく寄与しました。それにより惑星状星雲内のガスの温度や密度が求められ、20世紀中頃には、惑星状星雲は恒星進化の一過程であることが判りました。

一方、惑星状星雲の構造では、20世紀末に高分解能画像が得られるようになり、球状、リング状、楕円状、双極状…と多岐にわたるだけでなく、微細構造が幾重にも折り重なって複雑な構造が作られているのが判ってきました。ハッブル宇宙望遠鏡で公開される画像のように、惑星状星雲の構造は小さなスケールで見れば見るほどその複雑さを増します。構造についての理解は、色彩に比べればまだまだ浅いのです。

すばるが観測したAFGL618は、非常に若い惑星状星雲の中で、最も重要な天体のうちの一つとして知られています。星雲が2つの方向に伸びていることから、双極惑星状星雲と呼ばれています。研究グループは、この星雲の両端に「弾丸」と「角(つの)」のような構造を発見したのです。

「弾丸」や「角」が星雲の端にあることから、中心の年老いた星から高速に飛び出たガスが、過去に放出されたガスやチリに衝突して形成されたと思われます。

植田さんたちの研究グループは、「弾丸」と「角」を作った衝突現象によって、星雲の形が双極になったと考えています。同研究グループが行ったアリゾナ州・キットピークにある ウィスコンシン・インディアナ・イェール・NOAO(WIYN)望遠鏡を用いた最新の観測からも、この仮説が正しいことがわかりつつあります。さらに彼等は北カリフォルニアにある バークレー・イリノイ・メリーランド連合(BIMA)電波干渉計でも、観測を行いました。AGFL618の周りにあるチリを透過して、内部の分子ガスの構造を直接見ることのできる波長の長い電波を用たのです。

研究チームは、これらの観測結果から、「弾丸」と「角」の謎が解明されるだろうと述べています。

注:この天文ニュースは、植田さんが国立天文台ニュース(月刊)に寄稿された文章と国立天文台ハワイ観測所(すばる望遠鏡)のウェッブページに公開された文章を元に作成しました。